【ブランディング】顧客に愛される強い企業ブランドの作り方

ブランディングとは、顧客の心の中にあるブランドイメージを、企業が自ら定義するブランドアイデンティティと一致させる活動を指します。両者は結果と原因の関係にあり、ブランドイメージを企業が直接定義することはできません。そのため、明確なブランドアイデンティティを定義し、ブランドアイデンティティを反映したブランド要素やブランド体験により、全てのブランド接点において一貫したメッセージを与え続けることが重要です。そして、強いブランドとは、顧客の中に特定のニーズが発生した時、真っ先にそのイメージを想起されるブランドです。

モノ余りの現代では、機能や価格など数値にできる情報だけでは、強豪との差別化が難しくなっています。どんな商品にも類似の商品がある中で、消費者は、価値観や理念に共感し、信頼できるブランドを購入するようになって来ました。企業間の取引でも、フェアトレードやESGなどの言葉に代表されるように、次第に価格以外の要素が重視されるようになって来ています。その結果、企業は自社の価値観や理念、それらに基づいた個性や魅力を伝え、共感を生むブランディングが重要となっています。

今回は、競合との差別化を実現する強いブランド企業の作り方について、具体的なアプローチを解説して行きます。

【ブランディング】顧客に愛される強い企業ブランドの作り方

ブランディングのメリット

ブランディングの各論に入る前に、まずは、ブランディングのメリットを確認します。
一般的に、ブランディングには以下のようなメリットがあると言われています。

プレミアム価格を設定できる

品質や性能が同じくらいであれば、強いブランドはそうではないブランドに比べて、一般的に高価格が受け入れられるとされています。
有名な例ですが、豊予海峡でとれるマサバのうち、大分県漁業協同組合佐賀関支店の組合員が一本釣りしたものは『関サバ』と呼ばれ、1尾で5,000円もの値がつくブランド魚です。筆者の近所のスーパーで売っているサバは2尾で500円程度だったので、普段料理をしない方でも、いかに高価なプレミアム価格か分かると思います。

ちなみに、同じ豊予海峡一帯で漁獲されるサバも一定のプレミアム価格ではありますが、『関サバ』は地域団体商標を持っている佐賀関町漁協が釣った鯖に限定されています。

広告費などの販売促進費を低減できる

強いブランドは、積極的に広告を打たなくても顧客側からそのブランドを求めてくれるため、新規の顧客獲得やリピート獲得に要するコストが、大幅に低減できます。

優秀な人材を確保できる

強いブランドはそうではないブランドに比べ、そのブランドに愛着を持った優秀な人材が集まるとされています。また、優れたブランドの構築に貢献していると実感することで、優秀な人材のモチベーションが向上し、定着率やサービスレベルの向上にも繋がります。

理想の顧客とのマッチングが向上する

ブランディングが弱くて、値下げや廉価販売の他に集客手段が無い場合、価格競争の回避は困難です。しかし、ブランディングが強く、そのブランドへの愛着を持った顧客が自ら求めてくれるようになれば、商品やサービスの価値自体が求められているため、それらに対し十分な価値を提供することができれば、値下げや廉価販売をする必要は無くなります。

顧客満足度の向上に繋がり易い

弱いブランドは一般的に価格でしか評価されませんが、強いブランドは商品やサービスそのもの、パッケージ、店頭接客、アフターサービス、広告、社会的ステータスなど、様々な軸で評価されるため、顧客満足度の向上に繋がる可能性が高まります。

『強いブランド』とは

具体論に入る前に、まず、どうやって自社ブランドの強さを測れば良いか、確認しましょう。

ブランドの強さを測る質問

ブランドの強さは、2つの質問をすることにより測ることができます。

  1. 「○社(自社の名前)と言ったら△」
  2. 「△(ニーズ)と言ったら?」

前者で商品、サービス、ブランド名など具体的な言葉が△に入らないとしたら、そもそも自社が顧客に認知されていないということです。そして後者で真っ先に自社の名前が挙がらないとしたら、それは、競合に対し遅れを取っているということになります。『強いブランド』とは、前者の質問で迷いなくブランド名が挙げられ、後者の質問で真っ先に自社名が挙げられるブランドを指します。

トップ・オブ・マインドに挙げられることが重要

この「真っ先に自社名が挙げられるブランド」はトップ・オブ・マインドと呼ばれ、様々なブランドの中から最も選択されやすいブランドです。
例えばコーラのトップ・オブ・マインドはコカ・コーラ、テーマパークのトップ・オブ・マインドはディズニーランド、山のトップ・オブ・マインドは富士山です。トップ・オブ・マインドとそれ以外の差は顕著であり、コーラにはペプシ、テーマパークには東京ドームシティアトラクションズ、山には日本百名山に選ばれた八幡平や当社のある埼玉で一番高い唐松尾山など、様々な素晴らしい素材がありますが、最初にそれらを思い浮かべる人はほとんどいないはずです。実際に買うかどうかは、価格やアクセスのしやすさなど様々な条件によりますし、それぞれにはそれぞれのファンがいますが、ブランドの強さという観点からは圧倒的な差であり、二番手以下から強いブランドを育てることは極めて困難です。

『強いブランド』を作るポイント、つまりトップ・オブ・マインドで最初に想起されるポイントは、明確なブランドアイデンティティを確立することと、勝てるカテゴリーを選んで局地戦をすることです。
以下、順を追って説明します。

ブランドアイデンティティの解説

ブランドアイデンティティとは、自社の製品・サービスが競合他社の製品・サービスとどこが違うか、自社ブランドがターゲットユーザーに対しどうイメージされたいかを端的に表したメッセージです。
前述の通り、アイデンティティは飽くまでも、自社の従業員に共有するメッセージです。そのため、下記に具体例を挙げますが、非常にシンプルかつ明確であり、簡単に覚えられ、従業員が迷いなく行動に移せるものになっている必要があります。

  • スターバックスコーヒー・・・サードプレイス
  • リッツ・カールトン・ホテル・・・第二の我が家
  • NIKE・・・Just Do It(とりあえずやってみよう)
  • ユニクロ・・・MADE FOR ALL(衣服を通じてあらゆる人の生活をより良くする)
  • ライザップ・・・お客様の叶えたい身体に向けて、結果にコミットすること

「ブランディング」を希望される方の中には、ブランドネームやロゴマークは予め作ったうえで、それに合うブランドを構築して欲しいと依頼されることがあります。しかし本来は、ターゲットユーザーにどのようにイメージされたいかが決まらなければ、ネームやロゴが形になるはずがありません。もちろん、長年愛されてきたロゴマークを活かしたいといったことはありますが、それも「愛されてきた」という事実と、「どのように活かしたいか」という想いがあっての話しです。

ポイントは、ユーザー起点であることです。強いブランドを作ろうと思ったら、まず、顧客が誰で、どのようなニーズを持っているかを出発点とした、アイデンティティの構築から始めます。
以下に、そのステップを解説します。

経営理念の確認

ブランディングの最初の一手は、自社の経営理念の確認です。
ブランディングとは、自社が構築するブランドアイデンティティと顧客の中にある自社ブランドに対するイメージを一致させることです。
もし、その一致した姿が経営理念と異なっていたら、組織としての一貫性が保てないばかりか、経営理念の達成に寄与しないのであれば、経営的な観点からは成功とは言えません。そのため、まずは自社の経営理念をしっかり確認し、背景、意味、想いなどを共有することから始めます。

環境分析

PEST分析、3C分析、クロスSWOT分析などで外部環境を分析し、基本的な戦略を検討します。
これらについては、精緻に分析するなら専門の調査会社に依頼する方法もありますが、相応の費用と時間がかかります(内容にもよると思いますが、筆者が勤務時代に見積りを取った時は調査設計からレポーティングまでで2か月くらい/3~400万円くらいでした)。そのため、大規模なブランディングでなければ、まずは社内各部署から意見を出し合って自社内で調査をして、「これはもっと詳細な調査データが必要だ」となった場合に外部調査を検討するのも一法です。

STP分析

SPT分析とは、S:セグメンテーション、T:ターゲティング、P:ポジショニングの順に市場を分析し、ターゲットに対し最も効果的なポジショニングを特定して行くアプローチ方法です。

セグメンテーション

セグメンテーションでは、3C分析で抽出した顧客層を、年齢、性別、職業、家族構成など、様々な切り口で細分化して行きます。
細分化の切り口としては、上記に挙げたような人口統計的要素のほか、経済的要素や地理的要素、心理的要素など様々な要素があります。ポイントは、自社の業界や商材特有の細分化基準も取り入れることです。

STP分析、セグメンテーション

ターゲティング

ターゲティングでは、セグメンテーションで抽出した切り口に対し、自社のターゲット顧客が当てはまる要素を選択し、一覧表を作成します。
ポイントは、できるだけ具体的に絞り込むことです。例えば、筆者はラーメンが好きですが、ラーメンは国民食だからと言ってターゲットを「20代~60代の男女」といった広すぎる設定をしてしまっては、20代の男性と60代の女性では根本的に食べる量や健康意識から全く違うため、両方に満足してもらうブランディングは困難です。そのため、自社が真にターゲットとしたい層はどこなのかを強く意識し、それ以外を選ばないようにすることで、ターゲット顧客に対する解像度が大きく高まります。また、ターゲティングができたら、それを元にリアリティのあるペルソナを作りましょう。

STP分析、ターゲティング

ポジショニング

ポジショニングでは、競合と比較した時に、ターゲット顧客からどのように見せるのかを、様々な軸で検討して行きます。
ここでは、機能的価値と情緒的価値(主に、感情的や感性などによる評価)によるポジショニングは必須です。できれば、他に社会的価値や顧客の属性など、複数の軸でポジショニングを検討することで、ブランドに深みが増し、より強いブランドになれる可能性が高まります。

STP分析、ポジショニング

『ブランディング』と言えば、まずネームやロゴなどの外形的な要素を思い浮かべる人がいますが、これらの分析ををしっかりやらなければ、外形的な要素が差別化に繋がりません。特にポジショニングに関しては、顕在化している直接競合の他にも、部分的な競合や将来的な競合など、様々な競合を想定し、差別化できるポジションを導き出すのは簡単ではありません。しかし、ここで自社ブランドの価値を明確に打ち出すことができれば、お客様に対する訴求ポイントも具体的になり、競合に対しても強い差別化ができます。

ポイントは、独自性と強みへの集中です。弱みを克服しても、単に「欠点が無い」というだけであり、平均点にしかなりません。そうではなく、セグメンテーションも、ターゲティングも、ポジショニングも、自社の独自性を確保し強みを活かすためにはどうすれば良いかを徹底的に考え、弱みさえ強みに変えるような逆転の発想が重要です。

【弱みを強みに変える例】

「弱み」と捉えれば「強み」と捉えれば
生産量が少ない希少価値が高い
価格が高い高級品である(高級イメージを訴求できる)
ここにしか店が無い地域密着、地場製品、地産地消
アクセスが悪い隠れ家的、周辺に競合がいない
硬い歯応えがある
形がいびつ、形が揃っていない自然のまま

ブランドアイデンティティの構築

『ブランドアイデンティティ』とは、前述の通り、自社の製品・サービスが競合他社の製品・サービスとどこが違うか、自社ブランドがターゲットユーザーに対しどうイメージされたいかを端的に表したメッセージです。
これまでの分析結果から、自社ブランドは誰の、どんなニーズを、何で、どのように解決するのかを整理したうえで、このメッセージを決めて行きましょう。

強いメッセージのポイントは、以下の3点が明確であることです。

  • 価値・・・顧客にとって価値があるか(その商品を選ぶ理由)
  • 独自・・・自社と他社を区別可能か(その商品を自社から買う理由)
  • 共感・・・顧客が納得し、更に共感できる理由

もし性能だけで選ばれるなら、大きさ、速さ、量など数字で計れる機能的な価値だけで選ばれることになり、中小企業に勝つ見込みはほとんどありません。しかし、人は、機械のように冷静・客観的に、性能だけで選ぶ合理的な存在ではありません。雰囲気、見た目の良さ、味や香りなど、数値には現れない要素で情緒的に共感できるからこそ、数ある類似商品の中からそれを選びます。
一方、ブランディングとは、飽くまでも「自社が定義したブランドアイデンティティと顧客の中にあるブランドイメージを一致させること」であり、芸術作品ではありません。顧客は誰で、何を求めているのか、自社は何を提供できるのか、STP分析の結果から離れないように注意が必要です。

ブランド要素のデザイン

ブランドアイデンティティを構築したら、それを表すブランド要素を作って行きます。

代表的なものとしては、ブランドネームやロゴマーク、色などが挙げられます。また、商品であればパッケージ、店舗であれば空間デザイン、WEBサイトであればドメイン(URL)なども挙げられますし、客層によってはキャラクターがあっても良いです。こういった、ブランドに対する五感での接点に、ブランドアイデンティティが反映するように一つ一つデザインして行きます。そのため、必要に応じて、アイデンティティの検討段階からデザイナーやコピーライターにも参加してもらうことも検討します。

例えば当社であれば、以下のようなブランド要素を設定しています。

ブランドネーム

「どんな会社なのか一目で分かるようにしたい」という想いから、奇をてらわず、代表者の名前をそのまま社名にした。

花村広報戦略

ブランドカラー

「品質で評価してもらいたい」という想いから、落ち着いたブルーブラックにした。

ロゴマーク

ブルーを基調に、代表者の苗字から取った「花」をモチーフにした。

ポイントは大きく2つあり、一つ目は、ブランド要素とブランドアイデンティティの間に一貫性があることです。例えば、高級志向のブランドアイデンティティなのにロゴマークがゆるキャラでは、ブランドアイデンティティとブランドイメージを一致させることは困難です。
二つ目は、それぞれのブランド要素の間にハーモニーがあることです。ブランド要素を作る目的は、芸術作品のように特定の要素の独自性や芸術性を競うことではなく、顧客の中にあるブランドイメージと企業がこれまでのプロセスで設定したブランドアイデンティティを一致させることです。一つ一つの要素はブランドアイデンティティと合っていても、全てを俯瞰した時に、特定の要素だけが極端に見えてしまうのであれば、よりバランスよくメッセージを発信できるように調整しましょう。

また、こういったブランド要素をデザインする時は、パッケージ、空間デザイン、WEBサイトなどだけでなく、既に使っているものを一通りリスト化し(例:店内掲示中のポスター、既に使っている名刺、現在着用中のユニフォーム)、何をどのように変えるかを網羅的に検討し、ブランド要素の一体感を損なわないようにすることも重要です。

ブランド体験のデザイン

ブランド体験とは、実際にそのブランドを体験した人がどのように感じるかを、顧客のタッチポイント全てで最適にデザインして行くことです。
やるべきことは、大きく下記の3点に整理できます。

オンラインとオフラインの統合

オンラインでの顧客接点は、SNS、ウェブサイト、Eメールマーケティングなど多岐にわたります。これらのデジタルチャネルでは、ブランドを象徴するメッセージや最新の情報、ターゲットに合わせたパーソナライズされたコンテンツなどを提供し、顧客のエンゲージメントを高めます。

また、オフラインの接点は、実店舗、イベント・キャンペーン、アフターサービスなどです。実際の接触を通じて顧客が製品を直接体験し、ブランドに対するリアルな感触を得ることができます。店舗内のデジタルサイネージやQRコードを使ったインタラクティブな体験は、オフラインのエンゲージメントをデジタルに結びつける効果的な方法です。

オンラインとオフラインの体験を統合するためには、一貫したメッセージとビジュアルを維持することが重要です。例えば、オンライン広告で見たプロモーションが実店舗でも同様に適用されることで、顧客は統一感を感じます。また、オフラインでの店舗空間やサービス、実際に利用した顧客の声などがオンライン上で見れることにより、安心して利用でき、顧客の満足度も高まります。

総じて、オンラインとオフラインのブランド体験を統合することは、顧客満足度の向上、ブランドロイヤルティの強化、そして最終的には売上の増加につながります。企業はこの統合を通じて、ブランドアイデンティティの一貫性を強化して行きます。

カスタマージャーニーマップの最適化

「カスタマージャーニー」とは、顧客がそのブランドを認知してから、購入を経て、アフターフォローを受けるまでの一連の過程を通じ、ロイヤルティを高めリピーターになっていくストーリーを指し、様々なチャネルでのストーリーを包含して「カスタマージャーニーマップ(顧客行動マップ)」と呼ばれたりします。このカスタマージャーニーマップを作る事により、自社ブランドと顧客のタッチポイントを明確にし、顧客の視点、行動、感情の変化を俯瞰的に追跡することが可能になります。

最適化するため最初に行うのは、カスタマージャーニーマップの遷移の最適化です。実際にマップを作ってみれば、継ぎ接ぎで作られたシステムに合わせて顧客に同じような情報を何度も入力させていたり、オンラインとオフラインでサービスが途切れてしまっていたり、せっかく得た顧客情報を活用できていなかったり、といった社内都合による非効率な導線=顧客に負荷をかけているタッチポイントが見付かることも少なくありません。そのため、まずは大所高所からそういった非効率を確認し、非効率な導線を無くすようにしていきます。

【事例紹介】
筆者が以前勤務していた通販コールセンターでは、電話経由、返信ハガキやFAX経由、WEB経由の情報を全て一元的に管理し、いつどこに問合せがあっても一人ひとりの顧客の購入履歴や問合せ履歴を踏まえてパーソナライズした提案ができるようにしていました。
しかし、ある時カスタマージャーニーマップを描いて分析したところ、ある特定の条件下ではチャネル間のデータ連携期間にズレが生じており、例えばWEBで注文してすぐに訂正で電話しようとしたら、状況を把握せず見当違いな回答をするリスクがあったことが判明しました。この時は、センターのメンバーに聞いたお客様の声がヒントになり、ジャーニーマップに時間を書き込んだことで、ようやく分かりました。

この例のように、カスタマージャーニーマップはただ単に作るだけでなく、必ず様々な部門間で俯瞰的にチェックし、システム構成、現場の運用、取引先への周知内容、具体的なお客様の声などと比較して違和感が無いものを作ることが重要です。そして、まずは現状を忠実に反映したマップを作ったうえで、非効率な箇所をどのように解消するか検討しましょう。

カスターマージャーニーマップを作る時には様々なAIDMAモデルやAISASモデルなど様々なフレームワークがありますが、ここではもう少し抽象化して、認知、興味・関心、購入・利用、フォローアップの4段階で解説していきたいと思います。

認知段階

認知段階では、直接的なサービス提供よりも、顧客がブランドを知るきっかけとなる活動が重要です。例えば、店頭に特徴的な看板を置いたり、店舗スタッフが街頭でパンフレットを配布したり、地域イベントに参加してブランドの存在をアピールしたり、広告を出したりすることで、顧客とブランドとの接点を増やし、露出を拡大して行きます。

興味・関心の段階

顧客がブランドに興味・関心を持ち、検討し始める段階では、質の高い情報提供やカスタマーサービスが重要となります。この段階では、自社ブランドの優れている点をアピールするだけでなく、どのようなニーズが満たされるのか、生活をどのように変えるのか、といった顧客の立場に立った提案をすることで、ブランドに対する機能的な理解だけでなく情緒的な共感に繋がります。また、商品やサービスに対する情報提供だけでなく、電話やメール、SNSなどの問い合わせに対して、迅速、丁寧、誠実なカスタマーサービスを行うことで、ブランドに対する信頼感を醸成させます。

購入・利用の段階

購入・利用の段階では、購入時のスムーズさがブランド体験を大きく左右するため、顧客が「買おう」と決めた時、スムーズに購入でき、また、それを後悔させないようにします。 例えば、店舗スタッフによる自然な商品説明や購入サポート、配達などのサービスにより、顧客が安心して購入できる環境を整えます。また、オンラインの場合はいわゆる『カゴ落ち』を防ぐため、分かり易い情報提供と、必要最小限の直感的な操作で購入できるような導線設計も重要です。

フォローアップ

購入後のフォローアップも重要なサービスの一部です。購入後に顧客に顧客の声を聴く仕組みを作ることができれば、商品の使用感や満足度だけでなく、商品やサービスの改善点を見付けられる可能性がありますし、改善点だけでなくお褒めの言葉や、自社が予め想定していなかった利用方法などが得られる場合もあります。
継続的に利用する商品の場合であれば、品切れ間近のタイミングで連絡するいわゆる「米櫃管理」により継続注文の可能性が高まりますし、解約率が高まる時期の少し前にその兆候のある顧客にコンタクトを取り、先んじて不満を解決することができれば、継続率を高めることにも繋がります。

推奨行動規程と禁止行動規程の作成

カスタマージャーニーマップを最適化しても、具体的な行動指針がなければ何をすれば良いか分かりません。仮に、初期の段階では価値観や行動指針が共有されていたとしても、従業員の入れ替わりの中で、次第に形骸化して行きます。
そのため当社では、ブランドアイデンティティとカスタマージャーニーマップに基づいて、推奨行動規程と禁止行動規程を作成することをお勧めしています。
推奨行動規程としては、例えば以下のような例が挙げられます。

  1. 一貫性のあるコミュニケーション:全ての顧客接点で一貫したメッセージとトーンを維持すること。広告、ウェブサイト、店舗、カスタマーサポートなどでのコミュニケーションが統一されていること。
  2. 顧客中心のサービス:顧客のニーズと期待を理解し、それに応じたサービスを提供すること。顧客フィードバックを積極的に収集し、それを基にサービス改善を行うこと。
  3. 社員教育とエンゲージメント:全ての社員がブランドの価値とビジョンを理解し、それに沿った行動を取るようにすること。そのために定期的なトレーニングと情報共有を行い、社員のモチベーションとエンゲージメントを高めること。
  4. 顧客とのエンゲージメント:顧客の声を聴き、顧客満足度を高めること。顧客の声を積極的に取り入れ、ブランド体験を共に作り上げる姿勢を持つこと。
  5. シームレスなオムニチャネル体験:オンラインとオフラインの接点を統合し、シームレスな体験を提供すること。例えば、オンラインでの購入履歴が店舗でも参照できるようにするなど、一貫性のある顧客体験を実現すること。

また、禁止行動規程については、以下のような項目を含めることが多いです。

  1. 不誠実なコミュニケーション:顧客に対して誤解を招くような情報を提供したり、誇張した広告を行ったりすることは禁止です。信頼を損なう行動は、ブランドイメージに大きなダメージを与えます。
  2. 顧客フィードバックの無視:顧客からの苦情やフィードバックを無視することは禁止です。顧客の意見を軽視することで、不満が蓄積し、ブランドロイヤルティが低下します。
  3. 一貫性のない体験の提供:異なるチャネルや接点で矛盾するメッセージやサービスを提供することは禁止です。一貫性が無いメッセージは、顧客に混乱を与え、ブランドの信頼性を損ないます。
  4. 社員のモチベーション低下:社員の意欲を低下させるような扱いや、ブランド価値に対する理解が不足した状態での業務遂行は禁止です。従業員の意欲が低下したら、顧客へのサービス品質も低下します。
  5. 無責任な問題対応:問題が発生した際に、顧客に対して不誠実な対応を行うことは禁止です。迅速かつ誠実な対応を怠ると、顧客の信頼を失うことになります。

まとめ

強いブランドを作るためには、ブランド全体で一貫性と継続性が必要です。
具体的には、明確なブランドアイデンティティと、それに基づいたブランド要素とブランド体験を設計することであり、近道はありません。

一方、ブランディングには多くの人が関わります。社内だけでなく、例えばデザイナーやコピーライターといったクリエイティブ領域や、弁理士などの高度専門領域については、社外から参加してもらうこともありますし、それらの関係者全員のベクトルを合わせ同じ方向に進めるのは簡単ではなく、半年壱年くらいの長期間を要することもざらのため、途中でメンバーの入れ替わりがあったりすると、推進力を失って空中分解ということも少なくありません。
また、実際のブランディングにおいては、組織が元々受けている社会的評価、ブランディングに対する組織の理解度やモチベーションなどによっては、今回ご紹介した手順通りに行かないことも多いです。ブランディングの担当者や責任者の社内的なポジションによっても、難易度は大きく変わります。特に、組織に対し既に一定の社会的評価が固まっている場合は、その社会的評価を180度逆転させることは簡単ではなく、その中で、リブランディングをするのか(既存のブランドを再生させるのか)、ブランドアンブレラを整理するのか(特定のブランドを分割するのか)、新しいブランドを作り直すのか、といった判断をしていくことになります。

【事例紹介】
筆者が以前支援した任意団体の例では、社会的評価の一部に正しく伝わっていないものがありましたが、元々ある程度のブランド要素が確立されていたため、その要素を活かしながらメッセージを正しく伝えるようにリブランディングを行いました。

具体的には、誤解を引っくり返すような強いメッセージを込めたシンプルな推奨行動規程と禁止行動規程を作成し、それらを明確に打ち出した記者会見や講演会などのイベントを継続して実施したところ、メディアやSNSでも大きく取り上げられるようになりました。
ロゴやネームなどのブランド要素は大きく変わりませんでしたが、メッセージが変わったことで周囲の理解と認識が変わり、社会的評価がポジティブに変わりはじめたため、最初は定期的に挙がっていた「新しいブランドを立ち上げた方が良いのでは」といった声も次第に聞こえなくなったので、既存ブランドのメッセージを丁寧に確認し、チラシ作成やイベント開催などでそのメッセージを伝える機会を作ることに注力しました。その結果、周囲にブランドアイデンティティが浸透し、少しづつブランドイメージも変わって行きました。

このように、ブランディング・ブランド構築は、社内外の多くの関係者に参加してもらいながら対応する必要があり、組織の置かれた状況によって課題が全く異なるため、これをやったら必ずうまく行く、という正解がある訳ではありません。しかし、明確なブランディング、強いブランド作りが成功したら、多くの人に喜んでもらえる、非常にやりがいのある仕事です。もし、ブランディングをやったことが無い場合や組織内の理解度が低い場合は、外部の専門家を呼び半日程度の研修を行い、ブランディングに対する組織的な理解度や課題認識を合わせてから着手するのも、一つの方法かと存じます。
本記事が、読者の強いブランド構築の参考になれば幸いです。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。