【ブランディング】競合との差別化 | 「らしさ」を作る3つのポイント
先日、ある外資系のベンチャー企業に努める友人のプロダクトマネージャーから、超高性能のオンライン会議デバイスを見せてもらいました。
フリースペースのような配置が流動的な場所でも、そのデバイスを部屋の中に置いておけば、センサーが部屋中の長短様々な距離に点在する人を自動的に検知し、声や表情までしっかり読み取って画面の向こうにいる人に伝えてくれる。移動しても、自動的に追尾して調整してくれるので、話しながら誰かの隣に行って意見を訊いたりしても問題無し。まさに、文字通り“リアルと遜色のないオンライン会議”が実現するのかな、と期待させてくれる素晴らしいパフォーマンスでした。実際、アメリカでは数年前に政府高官でも導入されたとのことで、超VIPが会議で使っている写真を見せてもらいました。しかし、その素晴らしいデバイスがその後売れ続けたかと言うとそうではなく、特に日本では、販売には非常に苦戦しているとのことでした。
なぜ販売に苦戦したのか?
その友人に尋ねたら、「知名度が低いから」と言っていました。ですが、知名度の低さだけが問題だったなら、GoogleもAmazonも、最初は誰も知りませんでしたが、その圧倒的な性能と便利さが知られると、瞬く間に市場が拡大して行きました。
友人のデバイスがそういった先例とどう違うのか?
私の答えは、GoogleやAmazonは新規だったのに対し、友人のデバイスは買い替えだったことです。
新しいブランドの導入とは異なり、デファクトスタンダードと言えるような先行ブランドがある場合の買い替え導入では、先行ブランドや競合ブランドに対し強烈な差別化ができてないと、わざわざ買い替えてはくれません。そして、現代はモノ余りの時代であり、ほとんどの商品やサービスに類似品・先行品があるので、この『差別化』の必要性はかつてないほど高くなっています。
本コラムでは、現役のブランドマネージャーであり中小企業診断士でもる筆者が、ブランディングにおいて特に重要なポイントである『差別化』について、ポイントを解説します。
【ブランディング】競合との差別化 | 「らしさ」を作る3つのポイント
差別化のポイント
もし、あなたの恋敵が、あなたが愛する人に対し薔薇100本の花束を渡したら、あなたは薔薇101本の花束を渡しますか?
そう考えるのであれば、ブランディングとしては大きな失敗です。薔薇1,000本、あるいは10,000本の花束だったら成功なのかとか、そういう問題ではありません。本数の勝負をしている限り、10,000本で勝ったと思った途端、相手は10,001本の花束を渡して来るかもしれません。そうやって、終わりの無いレースが始まります。
経済学では、何かを1つ追加する度に増加する効用(限界効用)は、追加量が増えれば増えるほど小さくなって行く、とされています。分かり易い例を挙げると、仕事終わりに飲むビールは、最初の1杯目はすごく美味しいと感じるけれど、3~4杯目くらいになると少し落ち着くので満足度の幅は小さくなり、7~8杯目くらいになると酔っぱらって「もう飲みたく無い」となるので満足度の幅はほとんどゼロになります。その結果、薔薇だけで高い満足を確保するためには、部屋中を薔薇で埋め尽くすような膨大なコストがかかることになり、費用対効果が合わなくなって行きます。
この場合に必要なのは、薔薇の花束とは異なる価値を提供することで、意中の人の気を引くこと。つまり、「薔薇の花束」と強烈に差別化した価値を提供することで、「薔薇の花束」とは異なるニーズを喚起し、勝負の土俵を変えることです。
前述の私の友人の扱っていたデバイスは、確かに素晴らしい性能で、最高の会議環境を提供してくれました。しかし、オンライン会議システムには既に、ZOOM、Googleミート、Webexなど、デファクトスタンダードと呼べるような先行ブランドが多数あり、細かい使い心地に満足できない点があったとしても、会議をするためのデバイスも販売されています。それに対して後発のブランドがどんなに高いスペックだったとしても、オンライン会議自体のニーズは既に充足されているため、何百万円も出してわざわざ買い替える理由にはなりませんでした。必要なのは、先発ブランドに対し、スペックや量において「いかに上回っているか」の訴求ではなく、「どこが違うか」「何が新しいか」「どのように変わるか」「どんな問題が解決できるか」など、差別化のポイントを具体的に伝えて行くことです。そうやって自ブランドの差別化ポイントを伝えて行くことで、先発ブランドと異なる独自のブランドポジションを訴求し、新たなニーズ喚起しなければ、既に満たされているニーズに対し、後発の商品・サービスに買い替えてもらうことは困難です。
世界観のポイント
有力な先行ブランドと差別化するためには、以下のような対応が重要です。
あらゆる要素を統一し、ブランドの「らしさ」を作る
お客様が、最初から自社ブランドに対し望むようなイメージを持ってくれたり、どのようなニーズが満たされるか理解してくれることはほとんどありません。そのため、何度も継続的に接触し、伝えて行く必要があります。ブランディングでは、お客様との様々な接点・タッチポイントにおいて、一貫したイメージを与えるように設計して行くことで、自社が意図したイメージを持たれるようにして行きます。そこで大切なのは、統一した世界観を持たせるようにすることです。
CMなどでも、初めて見るはずなのに「なんだかどこかで見たことがあるような気がするな」と思ってみていたら、最後に知っているブランドのロゴが表示された、といった経験をしたことはありませんか?必ずしもCMである必要はありませんが、このように継続的に世界観を伝えることで、お客様に自ブランドを浸透させて行きます。
お客様がそのブランドに触れる要素としては、主な物だけでも下記のように多岐にわたります。
- ブランドネーム
- ロゴ・マーク
- 色
- フォント
- キャラクター
- チラシ・パンフレット
- WEBサイト
- ブログ
- SNS
- パッケージ・空間デザイン
- タグライン
- 店員・従業員の説明
- 服装・ユニフォーム
これらの要素を、それぞれの担当者が好みで選んでいたら、それぞれがどんなに恰好良かったとしても、全体として見た時の印象がバラバラになってしまい、何を伝えたいかが分からなくなります。なので、統一したブランドアイデンティティに基づいてそれらの要素を整理することで、どこで触れてもそのブランド「らしさ」が認識できる、一つの統一した世界観を作って行きます。
一番簡単に統一できる要素はデザインです。例えば色、ロゴ、フォントといった要素を統一し、WEBサイト、SNS、チラシやパンフレット、ユニフォームなどで使って行くことで、ブランドとしての一貫性を保つことができます。
また、WEBサイトやパンフレットなどに記載するメッセージや、営業や店員の説明との一貫性も重要です。
例えば前述の友人の例なら、スペックの優位性ではなく新しい価値、差別化ポイント、満たされるニーズなどを訴求していくのであれば、WEBサイト、SNS、チラシやパンフレットなどのメッセージも徹底的にその内容で統一します。もちろん、スペックが高いことも重要な要素ですが、それでは差別化ができないのであれば、メインメッセージではなく、参考情報・背景情報として伝えます。営業や店員の説明も、当然、差別化ポイントにフォーカスし、スペックの優位性ではなく、「従来とは違うどんなニーズが満たされるか」を伝えます。
具体的なブランドストーリーを伝える
前述の通り、既にニーズが満たされた状態であれば、例え後発ブランドがどんなに優れた性能だったとしても、高いお金を払って買い替えようとは思いません。ですから、後発ブランドとしては、先発ブランドとは違うニーズが満たされるということを、強く伝え続けて行く必要があります。
この時、数字やスペックだけでは、「優劣」は伝えられても「違い」を伝えることは困難です。なので、それにより生活や仕事がどう変わるのか、どんな問題が解決するのか、世界観を具体的なストーリーとして伝えてあげることが有効です。例えば友人のデバイスなら、以下のようなストーリーが考えられます。
- リアルと同様のコミュニケーション環境により、「なんとなく」を見落とさせません。
オンライン会議になってから、メンバーの「なんとなく反応が悪い気がする」といった兆候を察知しにくくなってしまい、ある日突然退職意向を告げられて驚いたことはありませんか?
当社の会議システムは、リアルで集まっているのと同等のコミュニケーション環境を提供することで、従業員一人ひとりの表情や声の雰囲気まで映し出すことで、オンラインでも、上記のようなコミュニケーションロスを無くします。 - どこにいても「全員参加」を実現し、在宅でも取り残しません。
オフィスの会議室メンバーと在宅メンバーで一緒に会議をすると、いつも、会議室メンバー間だけで会話に花が咲き、在宅メンバーが付いて来られなくなっている、といったことはありませんか?
当社の会議システムは、センサーが距離や位置を自動的に計測し、音声を最適化することで、在宅メンバーにも会議室内の会話がその場にいるような臨場感を持って聞けるので、在宅メンバーもオフィスでの会話の中に自然に参加できます。
数字やスペックは、前述の薔薇の例のように一つの明確な基準があり、大きさなら1よりは2、2よりは3と、必ず優劣がつきます。しかし、ストーリーは違います。お客様の生活、仕事、ライフスタイルなどは千差万別であり、一人ひとり、一つ一つに、違ったストーリーがあります。
また、大小や長短を選ぶスペックとは異なり、ストーリーの選択はお客様の好みによります。「優劣」なら、中小企業が大企業に勝つことは困難ですが、「違い」や「好み」なら、中小企業であっても工夫次第では大企業を上回れる可能性もあります。
トップ・オブ・マインドを取るためのポイント
トップ・オブ・マインドとは、「○○(○は具体的なニーズ)と言ったら?」と質問をした時に、真っ先に思い出してもらえるブランドのことであり、第一想起と訳されることもあります。
ブランディングでは、どんなに差別化をしてもトップ・オブ・マインドを取れなければ、選んでもらうことは困難です。選んでもらった先で実際の購買行動に結実するか否かは、在庫の有無や予算の多少に依るためブランディング担当者にはコントロール困難であるとするなら、ブランディングの目的・差別化の目的は、究極的にはトップ・オブ・マインドを取ることであると言うこともできます。
そこで本項では、このトップ・オブ・マインドを取るためのポイントをお伝えします。
どうやって自ブランドが選ばれるのか?
お客様が特定のブランドを選ぶまでのプロセスについては、様々な研究がありますが、Brisoux とLarocheが1980年に発表した論文「ブランドカテゴライゼーション」が最も一般的だと思われます。
これを簡単に説明すると、下記のようなトーナメント構造の中で、最後まで勝ち上がったブランドがトップ・オブ・マインドとなり、お客様に選ばれるブランドとなります。
具体的には、知名段階で勝ち上がるためには、看板、パンフレット、SNS、WEBサイトなどで継続的にブランド名を伝えて行くことで、「知っている」という状態を作ります。
処理段階では、意図した通りに中身を理解してもらうために、競合や先行ブランドとの違いを訴求します。前述の友人の例なら、ハイスペックなことではなく(それでは差別化にならないため、それ以降のトーナメントで勝ち上がれない)、今までとは違う新たなニーズを満たすことを理解してもらうために、具体的なストーリーを伝えることなどが考えられます。
考慮段階では、ニーズが発生した時に自然に自ブランドを想起してもらうために、ネーム、ロゴ、カラー、キャラクターなどのブランド要素を統一し、統一した世界観で「らしさ」を作ります。補足すると、一つのニーズが発生した時に、自然に想起されるブランドは通常、ほんの数個です。前述の友人の例でも、「オンライン会議ツールを使いたい」というニーズが発生した時に自然に想起できるブランドは、せいぜい、ZOOMとGoogleミート、Webexくらいでしょう。つまり考慮段階では、「ギリギリ想起される」といった程度では、ほとんど意味がないことに注意が必要です。
「ブランドカテゴライゼーション」の中に抜けがあると、トップ・オブ・マインドまで勝ち抜けません。自ブランドを「ブランドカテゴライゼーション」に当てはめた時、抜けが無いようにバランス良く組み立てて行きましょう。
アメリア・イアハート効果
ブランドにトップ・オブ・マインドを取らせるためには、適切なカテゴリーを選択することが重要です。
「適切なカテゴリー」とは、自ブランドに合ったカテゴリーではなく、自ブランドが勝てるカテゴリーを選択する事です。
例えば、「リンドバーグ」の名前を知らない人は、ほとんどいないでしょう。1989年デビューのバンドと混同される人が居るかもしれないので、念の為補足すると、1927年、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功したアメリカのパイロットです。ちなみに、このリンドバーグの後、遥かに長い距離の飛行に成功したパイロットは大勢いますが、名前を思い出されることはほとんどありません。つまり、ブランド作りにおいては、1番手となることこそが極めて重要であり、2番手以降では、例えどんなに内容が上回ったとしても、最早それがブランドになることはほとんどあり得ない、ということが分かります。前述の友人の例では、「オンライン会議用デバイス」としては既に先行ブランドが発売されているので、それらを巻き返すことは困難です。
しかし、2番手以降でも、適切なカテゴリーを選ぶことでトップ・オブ・マインドを取れる可能性はあります。それが、『アメリア・イアハート効果』です。アメリア・イアハートは、女性では初のアメリカ大陸単独横断無着陸飛に成功したパイロットです。映画にもなったので、ご存じの方もいらっしゃると思います。
出展:出展:Amazon.com,Inc『アメリア 永遠の翼 [DVD]』
リンドバーグ以降、多くのパイロットが長距離飛行に成功しながら、アメリア・イアハートだけが現代においてでさえ映画化されるほど色濃く残っているかといえば、その大きな理由の一つとして、「世界初」の中から「女性パイロットとしては世界初」というカテゴリーに切り口が変わったから、ということが挙げられます。
このような例は、枚挙にいとまがありません。
例えば腕時計のGショックは、「腕時計」というカテゴリーの中から「壊れない腕時計」というカテゴリーを切り出して、唯一無二のブランドを確立しました。トマトのアメーラは、「野菜としてのトマト」というカテゴリーの中から「高糖度トマト」というカテゴリーを切り出して、フルーツロジスティカ(ドイツ・ベルリン開催)のイノベーションアワードにてGOLDAWARD賞(最優秀賞)を受賞し、優勝するなど、高い評価を受けるに至っています。
先発ブランドが多ければ、そして、それが既にお客様のニーズを満たしていれば、後発ブランドがそれを上回ることは困難です。しかし、適切なカテゴリーを選ぶことができれば、先行ブランドとの競合を避け、独自のブランドを確立できる可能性は高まります。
まとめ
現代は、どこに行っても物で溢れ返っています。少なくても日本国内は、衣食住でも趣味でも娯楽でもあらゆるものが溢れ返っており、「足りないもの」はなかなか思い付きません。
このような現代において、単に新商品を作るだけでなく、その新商品に対するブランディングの重要性が高まり続けていると感じますが、中でも特に、先発ブランドがある場合には、自ブランドが先発ブランドとどう違うのかを具体的なストーリーで示して、差別化と世界観の構築を進め、トップ・オブ・マインドを取ることが極めて重要になります。
ブランディングとは、お客様の中にあるブランドイメージと自社のブランドアイデンティティを一致させることであり、長い時間がかかります。ちょっと上手く行かなかったからと言って、すぐに差別化要素と世界観を変えてしまえば、お客様の中にブランドイメージを定着させることはできません。一貫性と継続性をもって対応し、自社ブランドの「らしさ」を浸透させるようにしましょう。
本コラムが、貴社のブランド戦略のお役に立てれば幸いです。
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