【顧客満足】CSとESの関係とは? | ブランド満足度を高める、ES向上の3ステップ

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サービス業の現場では、「顧客満足度(CS)を向上させるためにはまず従業員満足(ES)の向上が必要」と言われることが少なくありません。確かに、商品、サービス、会社に対して不満を持った状態では、お客様に対しブランドに満足してもらえるように心のこもった対応をすることは困難です。しかし、従業員が満足しているように見えるけれど、現状に安住して危機感を持てず、お客様からご不満や改善の要望が挙げられても自分事として対応することができないなど、茹でガエルのようになっている組織を見たことはないでしょうか?

筆者は、勤務時代に15年以上コールセンターの品質管理を行い、その中で、従業員満足度を高めるための様々な施策に取り組んで来ました。

もちろん、成功体験だけでなく失敗も沢山経験して来ました。はじめて品質管理チームのチームマネージャーを拝命してすぐの頃、従業員満足度向上に全力で取り組んだ結果、ちゃんとお給料を払っているスタッフが、「自分も顧客のようにもてなされなければ、これ以上はやらない!」とお客様扱いすることを求め、実際のお客様の方を見なくなってしまったこともあります。上記の例で茹でガエルのようになっていた組織は、私がマネージャーだったコールセンターでした。

本稿では、このような様々な取り組みと、その結果として経験した成功と失敗を踏まえて、ブランドに対する顧客満足度向上(CS)に繋がる従業員満足度向上(ES)のステップを具体的に解説します。

【顧客満足】CSとESの関係とは? | ブランド満足度を高める、ES向上の3ステップ

従業員満足度(ES)が高いと顧客満足度(CS)も上がるのか?

「ESが上がればCSが上がる」は、間違いではありません。しかし、このセリフには、間にある重要なロジックがスッポリと抜けてしまっています。
重要なことは、従業員満足度を上げること自体ではなく、どの従業員に対してどうやって満足度を上げるのかであり、「従業員満足度向上(ES) = 顧客満足に対するモチベーション向上 = 顧客対応スキルの向上」というルートを繋げるための仕組み作りをすることです。

重要なことは、従業員満足度(ES)の高め方

従業員の満足の仕方、きっかけ、影響要素などは様々であり、人事評価や金銭的報酬などの外発的動機づけによるものばかりではありません。その仕事に対する興味や関心、貢献や成長の実感、組織との一体感、達成感といった内なる動機(内発的動機づけ)も含めた幅広い要素の中から、自社の商品、サービス、ブランドに合った要素を設計し、それをしっかりと従業員に落とし込んで行くことが重要です。

外発的動機づけと内発的動機づけ

モチベーションには、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があると言われており、それぞれの特徴を理解しながら、シーンに応じて上手く活用して行くことが重要です。

外発的動機付け

外発的動機付けとは、外部からの働きかけにより動機付け(モチベーション)を得ることです。具体的には、評価、報酬、懲罰(の回避)、賞賛などが挙げられます。例えば、キャンペーンの獲得インセンティブや顧客アンケートに基づいた表彰などにおいて、短期的・顕在的・限定的な効果が期待できます。半面、長期持続的な効果が薄い、自らが考えて創るような場合や評価者の目の届かないシーンが舞台になる場合など潜在的なテーマには工夫が必要、評価範囲が不確定な曖昧な課題には向かない、といった特徴があります。

内発的動機付け

内発的動機付けとは、従業員自身が持つ興味、関心、意慾、好奇心などにより、外部からの働きかけが無くても自ら持つ動機付け(モチベーション)を得ることです。具体的には、好奇心の満足、問題解決の実現、挑戦、自己承認、帰属意識などが挙げられます。例えば、その従業員が社会的意義を感じているテーマについて、責任と裁量を与えられ、期待を告げられることで、自発的に学び上司の目の届かない場所でも手を抜かず、曖昧な課題であっても乗り越えるために様々な工夫をするなど、長期的・潜在的・流動的で曖昧性の高い場面において効果が期待できるといった特徴があります。

「仕事だから、モチベーションに左右されるなんておかしい」は本当か?

時々、上記のような意見を聞くことがあります。確かにそうなのかもしれませんが、一方で、どんな仕事でも最初は皆初心者であり、社会的意義や深い興味・関心を持っていないことも少なくありません。特に、アルバイト、契約社員、派遣社員など非正規雇用の活躍が多いサービス業の現場においては、むしろ、ちょっとした興味や、時給やアクセスなどの条件がマッチしたから、といった人たちの方がずっと多いのが現実であり、そういった人たちに対し、最初から個客満足度向上のために内発的動機付けを求めることは困難です。

ですから、ちょっとした興味で来てくれた人たちであっても、分かり易い外発的動機づけで頑張ってもらいながら、仕事の意義、得られる能力、困難さとそれを達成した時の喜びなどを、時間をかけて伝えて行きましょう。そうすることで深い内発的動機付けを行い、人によって顧客満足へのモチベーションが左右されない仕組みを作って行くことが、個客満足度の向上に繋がります。

顧客満足度向上(CS)に繋がる、従業員満足度向上(ES)の3ステップ

従業員満足をブランドに対する顧客満足度の向上につなげるためには、大きく3つのステップがあります。

必要な要素の明確化

ブランドに相応しい接客を行い、ブランド体験を提供するために必要な要素を整理して行きます。
ポイントは以下の3点です。

スキルセットとマインドセットで分ける

身だしなみ、表情、動作、言葉遣い、商品やサービスの知識といったスキル面と、個客優先の考え、品質や顧客満足へのこだわり、課題意識などのマインド面に別けて整理すると、必要要素の過不足が生じにくくなります。

役職や配属先による「求められることの違い」は、部門間で整合性を取る

仕事内容やマネジメントレベルが変われば、当然、スキルセットやマインドセットも変わります。しかし、組織間でそれらの要素に整合性が取れていなければ、個客に対してはタッチポイントやコンタクトチャネルによって満足度に大きく差が出ることになりますし、社内に対しては移動や昇進の度に全く違う要素を求められることになり、統一性のあるブランド体験の提供が困難です。

ですから、スキルセットとマインドセットを整理したら、レベル感、共通要素と個別要素、連携事項などについて、必ず部門間で整合性を取り、ブランド全体として一貫性のある体験を提供できるようにしましょう。

実際の顧客対応に当てはめて検証する

複数の部門で議論しながらスキルセットやマインドセットを作るときには、議論が白熱した結果つい、挑戦的、理想的、独創的が”過ぎる”ものになる場合があります。高い顧客満足度を実現するためには、一定のストレッチは必要ですが、現場と乖離し過ぎてしまわないように注意しましょう。

そうならないようにするためには、顧客対応部門と連携して、実際の顧客対応事例を複数用意し、スキルセットやマインドセットを当てはめた時にどうなるか、それは組織の求める姿・ブランド体験・顧客満足の方向と一致しているかといった検証をすることが有効です。

能力開発と必要な権限の委譲

必要な要素を明確にしたら、それを習得するための能力開発を行い、必要な権限を委譲します。

能力開発について

サービス業の顧客満足に関わる能力開発では、いまだに、ベテランによるOJT任せという組織が少なくありません。確かに、企業規模によっては専任の研修担当を設定することが困難な場合もありますし、臨機応変な対応を求められる現場系のお仕事の場合などは特に、流れやコツを明文化するのが困難な場合もあります。

しかし、だからと言ってベテランの対応が常に高品質で、個客満足度も高いかと言えば、そうではないケースも少なくはありません。筆者が支援したあるコールセンターでは、モニタリングとアンケートで顧客満足度調査を行った結果、スキルが高いと思われていたベテランが惰性により会社の定めた手順やトークスクリプトを省略したりしている例が散見され、慎重に対応する新人層よりも顧客満足度もノーミス率も低いというケースもありました。

ですから、能力開発においては、前段で明確にした必要要素(具体的にはスキルセットとマインドセット)に基づいて、簡単なものでも良いのでマニュアル、チェックリスト、トークスクリプトといったツール類に落とし込んで行くことを強くお勧めします。

具体的には、以下の3ステップで対応して行くことをお勧めします。

  1. スキルセットとマインドセットの作成
  2. マニュアル、チェックリスト、トークスクリプトなどのツール類への落とし込み
  3. 習得までの所用時間や必要回数の算出

上記のステップで対応することで、OJT担当者に求められるスキルセットとマインドセット、ゴール感、そのためにどのようなスキル・案件をどの程度(何時間または何回)経験させるのか、といった基本的な情報が統一されるので、育成時間や顧客対応品質のバラつきが少なくなります。

権限移譲について

能力開発と並行して重要なことは、必要な権限を現場に委譲することです。

物作りと異なり、生きたお客様を対応している現場では、様々な状況やご要望が発生するので、その都度上司や本部に確認していては顧客満足の向上は困難ですし、そもそもビジネスチャンスを逃しことになりかねません。

一方、だからと言って現場に全ての権限を与えて丸投げしてしまったら、手抜きや過剰サービスなどの暴走に繋がる可能性もあります。

権限は、組織的に定められた範囲と手順によって行使されるからこそ、適正に機能します。ですから、能力開発においては惰性で研修をするだけでなく、個客満足度向上のために必要な能力開発を行ったら、必ずその能力に応じた権限を付与し、能力を発揮できるようにしてあげましょう。

採用、配置、評価、報酬の最適化

採用、配置、評価、報酬の中でも個客満足度向上のため特に重要なことは、評価と報酬です。
スキルセットとマインドセット、実際の顧客満足度、個客満足度向上に取り組む組織への貢献などと評価や報酬などがしっかり結び付くように仕組み作りをして行きましょう。

ちなみに、評価と報酬については時折、「自分には人事権が無いから、、、」とお話しされる方がいらっしゃいます。

しかし、評価や報酬は必ずしも、人事考課上の評価や金銭的な報酬を意味するものではありません。評価の例であれば、以下のようなフィードバックも、極めて重要な評価であり報酬です。

  • 「ありがとう、あなたが●●をしてくれたおかげでとても助かったよ」
  • 「前回よりも▲▲がすごくスムーズになっていたね」
  • 「■■さんのお客様に対するバリエーション豊かな質問や落ち着いた動作を参考にしています」

注意点は、必ず、しっかり観察をしたうえで具体的に伝えて行くことです。
例え業務については未熟だったとしても、一人ひとりが繊細な感性と空気を読む力を持っている人間なので、上辺だけの話しなのか本当にそう思っているのかはすぐに分かります。また、本当にそう思っていたとしても、本人が重要視していない要素だったり否定的な意見を持っている要素だったりしては、かえって従業員満足度を下げることになりかねません。ですから、褒められたら嬉しいはずだからと歯の浮くようなお世辞を言うのではなく、例え朴訥だったとしても、その従業員の動作と心情をしっかり確認したうえで、具体的に伝えて行きましょう。

なお、評価や報酬については前述の「外発的動機づけ」しか無いと誤解されることがありますが、必ずしもそうではありません。コミュニケーションの中で繰り返しフィードバックを与え、その仕事への理解度を深めてもらったり、その従業員の想いを聴いたりして行くことで、最初は外発的動機付けだったけれど、次第に自らの興味・関心に基づいた行動を自ら評価する「内発的動機付け」に変わることもあります。
そういった場合には、今度は後輩たちにその仕事の意義を伝え、個人では無く組織の個客満足度向上に対する指導的立場を任せるなど、新たな課題によりモチベーションを喚起しても良いでしょう。

まとめ

サービス業の現場では、よく「ESが上がればCSも上がる」と言われますが、本稿でお伝えした通り、個客満足度向上(CS)のためには、従業員満足度の向上(ES)を顧客満足に対するモチベーション向上に繋げ、そのモチベーションを顧客対応スキルの向上に繋げて行くことが不可欠です。
また、サービス業の現場では、どうしてもノウハウ共有が口伝とOJT中心になり、人によって顧客満足度にバラつきが生じやすいという特性があります。しかし、そういった場合でも、必要なスキルセットとマインドセットを明確にし、能力開発と権限移譲を行い、適切な評価と報酬を付与することで、ブランド全体で高い応対品質と顧客満足の実現が可能になります。

当社代表の花村は、600人超在籍のコールセンターや、住宅設備メンテナンス、タクシー会社、建設、砂・砂利、保育園など様々な業種・業態でESとCSを連動させるための取り組みをしてきており、この経験は、貴社と貴社のお客様の満足度向上に必ず貢献できると確信しています。

顧客満足度向上への取り組みにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。