【具体例あり】カスハラ対策の基本方針・ガイドライン 6つの作成ポイント
ハードクレームやカスハラへの対策において、マニュアルは極めて重要です。具体的にどのような状況に対し、どのようなポイントを確認し、どの様な対応をするのかを明確にしたマニュアルがなければ、毎回、個人の経験やスキルで乗り切ることになり、対応する従業員・スタッフのストレスやプレッシャーは甚大なものになります。実際、東京都カスハラ防止条例でも、厚生労働省のカスハラ対策マニュアルでも、対策マニュアルの作成を求めています。しかし当社では、ハードクレームやカスハラへの対策においては、必ず、対策マニュアルの作成前に基本方針・ガイドラインを作成することをお勧めしています。
実は、東京都カスハラ防止条例では、対策マニュアルの作成は求めていますが、基本方針・ガイドラインの作成を求めていません。ではなぜ、求められていないにも関わらず、わざわざ基本方針・ガイドラインを作成するのか?
それは、もし基本方針・ガイドラインを定めず、トラブルが起きた都度それに対する対策マニュアルを作成していたら、対策がモグラ叩きになってしまい、色々頑張ったけれど結局何を達成したのか分からなくなってしまうからです。そのため、まずは基本方針・ガイドラインの中で対策の目的、カスハラの定義、対応方針などを明確にし、権限、予算、体制などを規程として整理し、その範囲の中で業務フローや作業手順をマニュアル化して行く、といった階層的な対応が重要です。
本コラムでは、このような背景を踏まえて、カスハラ対策の基本方針・ガイドラインの作成の流れを具体的に解説します。
【具体例あり】カスハラ対策の基本方針・ガイドライン 6つの作成ポイント
状況調査の実施
カスハラへの対策を講じる際に最も重要なことは、その会社の実態に即した内容になっていることです。反対に、いかに優れた内容であっても、その会社で実際に起きたまたは起きうるカスハラとかけ離れている、現に発生しているトラブルに対し具体的にアクションが分からないものであれば、ほとんど意味がありません。そのため、まずは自社でどのようなカスハラがあるか、従業員・スタッフはどんな対応をしているのか、把握するための調査を実施します。
具体的には、カスハラに関する各種報告書や対応履歴を参照することで、過去の実績を元に、内容や件数などがどうなっていたか傾向を把握します。また、内容を把握する際には、実際に行った対応だけでなく理想的な対応や改善点も抽出することで、業務フローの見直しにも繋がります。
また、明確なカスハラとして各種報告書や対応履歴に残っていなくても、対応に難渋した案件はあるはずです。そのため、実際に顧客対応をしている従業員・スタッフに対してもヒアリングなどの調査を行い、業務のツールやナレッジの不足によるもの、対応スキルの不足によるもの、対応が難渋してはいるもののカスハラかクレームか判断が難しいグレーゾーンにあるものなど、案件の見極めを行います。
実際の対応状況の共有
ハードクレームやカスハラについて一定の調査をしたら、なるべく早い段階で、経営層やマネジメント層を含めて、関係者に実態の共有を行います。
ポイントは、調査結果のレポートだけでなく、できるだけ録画や録音などで実際の対応状況・生のトラブルを共有し、関係者の当事者意識を醸成することです。ハードクレームやカスハラへの対応は、想像以上にストレス・プレッシャーがかかります。しかし、実際に顧客対応をすることの無い経営幹部にとっては、ニュースなどで異業種・異業界のカスハラ事例を見ても対岸の火事のように感じ、「うちはタクシーじゃないから、後ろから蹴られたりとかは無いだろう」と軽視してしまう方もいらっしゃいます。そのため、自社で実際に発生しているハードクレームやカスハラの対応状況を共有することは極めて重要です。
なお、もしこれまでのハードクレームやカスハラへの対応実績を記録していなかったり、調査をしても有益な情報が抽出できなかったりする場合は、そのまま進めてしまうのではなく、その時点で必ず専門家に相談することをお勧めします。
基本方針やガイドラインを作成する際には、上記の通り、実態を反映したリアリティーは極めて重要であり、リアルな対応をイメージできない綺麗事をいくら並べても、ハードクレームやカスハラの減少には繋がりません。ですから、軌道に乗るまでは、様々な事例から“対応の相場観”を知っている専門家の助言を受けましょう。
もしお近くに信頼できる専門家がいない場合は、当社でも承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
基本方針・ガイドラインの作成
当社では、基本方針の作成においては、下記6つの項目を盛り込むことを推奨しています。
基本方針作成の背景や目的
従来からの事業環境や前段の調査結果などを踏まえて、以下のような情報を明記します。
- 自社の事業環境
- 基本方針・ガイドラインを作成する背景
- 目的・ゴール・在るべき姿
対応の基本方針
ハードクレームやカスハラへの対応に対する自社にとっての在るべき姿に基づき、基本方針を定めます。その事業者によって様々な基本方針があると思いますが、当社では、以下の2点を含めることを強く推奨しています。
- 正当なクレームへの誠実な対応
- カスハラへの毅然とした対応
自社にとってのカスハラの定義
カスハラは「カスタマーハラスメント」の略であり、外形的にはよく似ている場合がありますが、クレームの延長ではなく、パワハラ・セクハラ・マタハラなどと同じハラスメントの一種です。そのため、カスハラの定義を定める際は、公的な定義をしっかり踏まえたうえで、自社の事業特性などを踏まえた定義を考えるのが有効です。
具体的には、東京都カスハラ防止条例では、カスハラを「著しい迷惑行為」として、具体的には、暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、業務妨害、不退去その他の違法な行為と、申出の内容又は行為の手段・態様が社会通念上相当であると認められないものである不当な行為であると定められています。
また、厚生労働省の対策マニュアルではカスハラを以下の通り定義しています。
- 顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合 または
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当 であり
- 当該手段態様により、労働者の就業環境が害されるものである
事業特性を踏まえたカスハラの定義としては、例えば航空業界では、テロやハイジャックを防止する必要があるという事業特性からだと思いますが、「社員を欺く行為」をカスハラとしているものもあります。
なお、基本方針・ガイドラインに定める際には、こういった定義だけでなく、具体的にどのような行為が対象になるのか例を記載すると、従業員にとって分かりやすいだけでなく、そのような行為をするお客様が現れた際にも明確に指摘をすることができます。
コンプライアンスや社会的責任など
簡潔で良いので、各種法令の順守や人権保護を徹底すること、ハラスメントの根絶を目指すこと、などを明確に意思表示します。また、法令の定めが無いことであっても、コンプライアンスの観点から重視している価値観などがあれば明記します。
これらを明記することにより、基本方針・ガイドラインが事業者独自のものではなく、法的根拠に基づいて社会的な要請に応えるものであることの宣言になり、カスハラ対応が紛糾した場合にも、「こちらの通り、弊社は法令順守のためガイドラインを定めておりますので、ご納得いただけない場合には警察や弁護士を通じての対応となります」といった毅然とした対応に迫力が生まれます。
目的達成のために組織として取り組むこと
前述の通り、ハードクレームやカスハラへの対応は大きなストレス・プレッシャーがかかり、場合によっては心身の危険に晒されることもあります。そのため、上記をケアしながら基本方針・ガイドラインの目的を達成するため、企業として取り組むことを明記します。具体的には、以下のような項目の記載が考えられます。
- 警察、弁護士、医療機関、コンサルタントなどの専門機関と連携すること
- 組織内外に対する周知や啓発を行うこと
- 運用や業務フローを継続的に改善すること
- 従業員への教育・訓練を行うこと
- 従業員の心身に配慮すること
経営のコミットメント
繰り返し伝えて来た通り、ハードクレームやカスハラへの対応は大きなストレス・プレッシャーがかかるため、従業員・スタッフにとっては、一般的に自ら取り組もうと思えるような仕事ではありません。そのような仕事に対し、ただ単に「基本方針・ガイドラインを作りました」「この通り対応して下さい」というだけでは、実際に顧客対応を行う従業員・スタッフから受け入れてもらうのは難しいことも少なくありません。
そのため、当事者意識やカスハラ撲滅への決意など、強いメッセージで経営のコミットメントを伝えることが極めて重要です。また、経営計画の発表時、年頭訓示、全社会議、朝夕礼、社内報などを通じて、できるだけ経営自身の言葉で、継続的に伝えて行くことが重要です。組織規模や業種・業態によっては、経営が直接メッセージを伝えるのが難しい場合もあります。しかし、昨今ではオンライン会議ツールや、専門知識が無くても使えるような録画&配信のシステムなどもあります。そういったシステムを活用することで、一人ひとりの従業員・スタッフに経営のコミットメントを受け止めてもらえるように、継続的にメッセージを伝えて行きましょう。
具体例の紹介
これまで解説してきた内容を踏まえた基本方針・ガイドラインの例を紹介します。
なお、実際に基本方針・ガイドラインを作成する際には、前段で説明した通り自社の事業環境やこれまで発生したカスハラの分析結果を反映し、実態に沿ったものにしましょう。
1. 背景 (事業特性や環境変化など) 2. 基本方針 当社は、お客様を最優先に、お客様との信頼関係を築くことを最重要課題とし、以下の方針で対応します。 ・お客様からいただくご意見・ご要望は、私たちのサービス向上のための貴重な機会であると認識し、すべての声を真摯に受け止めます。 ・暴言・暴行など、著しい迷惑行為等(カスタマーハラスメント)に対しては、お客様との信頼構築に欠かせないスタッフを傷つける行為と捉え、社員の名誉・人権・安全を守るために、毅然とした行動をします。 3.当社の規定するカスタマーハラスメント 3-1.定義 当社は、顧客等の言動のうち、以下に該当するものをカスタマーハラスメントと判断します。 ①「内容の妥当性を欠く」または ②「手段・態様が社会通念上不相当なものである」であり ③「従業員の人権や安心・安全な職場環境が害される」であるもの 3-2.具体例(これに限るものではありません) ・暴行、脅迫、名誉棄損など、刑事罰の可能性がある行為 ・脅威と感じる大声、物品や設備等への乱暴行為 ・執務エリアへの立ち入りや社員を欺く行為 ・差別的な言動や性的な言動などのハラスメント行為 ・個人情報や会社情報のインターネット上への投稿 4. コンプライアンス 当社は、お客様との信頼関係を築き、社会の一員として責任を果たすため、法令遵守、人権保護、ハラスメントへの対策を徹底し、カスタマーハラスメントを含めた全てのお客様に対し誠実かつ公正な対応を行います。 5. 企業として取り組むこと 当社は、カスタマーハラスメントへの対応において、以下の事に取り組みます。 ・従業員が安心して業務に臨めるように、警察、弁護士、医療関係者、コンサルタントなどの専門機関と連携し環境を整備します。 ・従業員に対し、教育や訓練の機会の提供を行います。 ・運用や業務フローを継続的に改善します。 ・組織内外に対して、周知・啓蒙などの活動を継続的に行います。 ・従業員の安全と心身に配慮し、その健康を守ります。 6. 経営によるコミットメント 当社は、カスタマーハラスメントへの適切な対応のため、予算措置、体制構築、その他の必要な行為を経営が責任を持って行い、お客様との信頼を構築するとともに、大切な従業員を全力でカスタマーハラスメントから守ることを誓います。 |
まとめ
ハードクレームやカスハラへの対応において、組織としての基本方針やガイドラインを定めることは、有効な対策の第一歩となります。
もし基本方針やガイドラインの作成段階から専門家に相談をご希望の場合は、当社でも承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。