カスハラ対応事例 | 「上司を出せ!」「社長を出せ!」と言われたら
クレームやカスハラへの指導では、上司を出せ! 社長を出せ! と言われても、安易に交代させず、「上司に代わっても同じです」「私が責任を持って対応します」などと応えるよう指導している、といった声を聞くことがあります。
確かに、交代を要求されたからといってその度に簡単に交代していたら、上司や社長が本来行うべき仕事が滞ってしまうので、安易に交代させないことは、方針としては理解できます。しかし、中には、その担当者の不適切な言動に対し責任者に直接改善を申し入れたりといった希望や、担当者に責任は無くても商品やサービスそのものに対する重要な指摘であったりなど、客観的に見て上司に交代するのが妥当と思われる例もあり、一律で上司への交代をさせないことは、顧客満足度を大きく低下させる危険があります。
また、コストの面から見ればアルバイトなどの非正規社員が対応を簡潔させるのが望ましいですが、アルバイトにしか見えない従業員・スタッフが「責任を持って対応」と言っても、説得力がないためかえって炎上させてしまうこともあります。そういった人ばかりではないことは承知していますが、従業員やスタッフ本人にとっても主体的に取り組みたい仕事ではないという点も、考慮すべき問題です。この点が考慮せず、悪質なクレームやカスハラでも上司がなかなか変わらずに、「責任を持って対応してください」と言い続けるだけでは、従業員満足度が低下し、退職や、最悪の場合は悪評の蔓延に繋がることも考えられます。
このように、上司を出せ! 社長を出せ! といった要求への対応は、企業、顧客、従業員やスタッフ、といった3者の立場に配慮する必要があり、拒絶して終わりといった、簡単なものではありません。
そこで今回のコラムでは、コールセンターでの多くの対応経験を踏まえて、上司を出せ! 社長を出せ! と要求された場合の対応について解説して行きます。
カスハラ対応事例 | 「上司を出せ!」「社長を出せ!」と言われたら
上司に代わらない場合と代わる場合
冒頭で説明した通り、上司を出せ! 社長を出せ! といった要求には複雑な要素が絡み合った判断が求められますが、基本的には、安易な交代はしないようにすべきです。理由は、仮に自社に何らかのミスがあったとしても、上司や社長の存在と因果関係が無いからであり、仮に何らかの損害が発生していたとしても、上司や社長に代わることが損害の回復と無関係であるからです。
ですから、そういった因果関係がある場合や、上司が何からの専門知識を持っており、早期に交代することがお客様の損害回復に大きな影響がある場合などは、悪質なクレームやカスハラだからと頑なに交代を拒否するのではなく、適切な防衛をしながら交代を検討する必要があります。また、上記の場合以外でも、業務知識や対応スキルの不足や、怖がっている場合など、明らかにその従業員・スタッフの手に余ると分かるときには、無理をさせず、従業員を守るため速やかに交代すべきです。
以下、具体的に見て行きましょう。
謝罪は、その内容に応じた立場の者が行うのが大原則
以前にもお伝えしましたが、謝罪の大原則は、「ミスに応じた謝罪をする」です。それに納得するかしないかはお客様の気持ちの問題であり、もっと言えば、「気持ちの問題」である以上は、それを企業側が完全にコントロールすることはできません。
もちろん、お客様に納得いただくことは重要であり、そのための努力はすべきです。しかし、従業員・スタッフのミス、不適切な言動、などに対する謝罪であれば、それはその従業員・スタッフが真摯に謝罪をすれば良い話しであり、上司や、ましてや社長が謝罪しなければならない合理的な理由はありません。反対に、従業員・スタッフが、ここでするべき謝罪まで拒んでしまうと、企業としての姿勢の問題と捉えられ、更に上層部への交代を要求されることになりかねません。
そもそも企業は、全ての仕事に対して経営が直接指揮命令をしている訳ではありません。
部長、課長、主任、一般職といった階層の中で役割や権限を分担し、方針やルールに基づいて仕事をしています。ですから、組織的な欠陥や不祥事、心身や財産に対する甚大な被害などがあれば別ですが、業務上のミス、不適切な言動、といった内容についてはその担当者が真摯に謝罪することこそが重要であり、最大でも、その担当者の一階層上(担当者を指導する立場)で十分です。
担当者やその上司が真摯に謝罪してなお、執拗に上層部への交代を要求されたり、謝罪に付け込んで要求をゴリ押ししてきたりする場合には、しっかりとお断りして行きましょう。
従業員・スタッフを守るための対策が重要
「しっかりお断りして行きましょう」と伝えましたが、上司に交代しろ! 社長を出せ! と強く要求される場面では、ほとんどの場合でお客様との対応が難渋しており、激怒されていたり長時間対応になっていたりします。また、それらがカスハラではなく、自社のミスに起因した正当なクレームであったとしても、お怒りのお客様と長時間対応することは大きなプレッシャーであり、ましてやカスハラの場合は、従業員・スタッフにとっても大きなストレスがかかります。ですから、それらのストレスやプレッシャーから従業員・スタッフを守るために、感情的な対応を牽制しながら、上司に交代しろ! 社長を出せ! といったご要望に対するカウンタートークを用意するなどの対策が必要です。
具体的には、以下のような対策が考えられます。
窓口対応の場合
- お客様の目につく場所に自社のカスハラ対応指針や国のカスハラ対策ポスターを貼り出す
- お客様の目につく場所に監視カメラを設置する
- 複数名で対応する(極力、お客様と同等以上の人数で)
電話対応の場合
- 録音システムを導入し、電話がつながる前のアナウンスでその旨を告知する
→「サービス品質向上のため録音しています」など - 非通知拒否や、繰り返される場合は着信拒否を検討する
具体的な対応イメージ
概念的な説明だけでは具体的な対応のイメージが持てないと思うので、具体的な対応の流れを見て行きましょう。
設定は変えていますが、些細なミスに付け込んで、執拗な謝罪要求と無理筋な要求のゴリ押しをし、それが断られると、決裁権のある上層部への交代を要求して来た例は、実際に筆者が経験したクレームです。
商品交換不可が不承につき、上司への交代を要求された場合
- お客様:「お前、事情も聴かないでいきなり断るってどういうことだよ!?」
- 従業員:申し訳ありません、ちゃんと拝聴してから回答すべきでした。
- お客様:「で、どうなの? 事情ちゃんと教えたんだから、交換してくるんだよな?」
- 従業員:ご事情は承知しました。できるだけご要望に応えたいのですが、当社では、交換の際には皆様、レシートをご提出頂いております。
- お客様:「いきなり断っておいて、今度はレシート出せってどういうことだよ?」
- 従業員:他のお店でも売っている流通品ですから、最低限、当店でご購入いただいたことを確認のうえで対応しております。
- お客様:「俺が嘘松だっつーのか? おめぇーじゃ話しになんねぇーから店長に代われよ」
- 従業員:私の言動が不愉快に感じられたのであれば、私が謝罪いたします。大変申し訳ありませんでした。
- お客様:「いいから店長に代われよ」
- 従業員:お客様への対応は我々スタッフが担当することになっております。上司には私が責任を持って報告し、指導を受けますが、お客様への交代はいたしかねます。
- お客様:「店長に代われって言う客の希望がきけねぇーのか!?」
- 従業員:申し訳ありません。
- お客様:「ならさっさと交換しろよ。お前が事情も聴かないでいきなり断って来たせいで余計な時間くってイラついてんだよ。「責任持つ」っつーなら交換しろよ!」
- 従業員:事情も聴かずお断りしたことは、私の対応ミスでした。その件は改めてお詫び申し上げます。しかし、交換に応じられないと申している訳ではなく、購入履歴さえお示しいただければ対応可能です。レシートを破棄されたのであれば、クレジットカードの利用明細などご確認してみていただけないでしょうか。
- お客様:「面倒臭ぇーな、いいから店長に代われよ」
- 従業員:恐れ入りますが、必要な謝罪と提案はしております。私が本件の担当者なので、店長への交代はいたしかねます。
上司への交代をお断りする最大のポイント「是々非々で対応すること」です。
具体的には以下の3ステップで対応します。
- ミスと“それ以外”とを明確に分ける
- ミスに応じた謝罪を速やかに行う
- “それ以外”の部分について、組織としてのルールや方針に沿った解決策を提示
このように是々非々で対応する仕組み作りをすることのメリットは、悪質なクレームやカスハラにおける上司への交代要求をブロックできるようになるだけではありません。正当なクレームに対しても、ミスに応じた適切な謝罪と建設的な提案がスムーズに行えるようになるため、顧客満足度の向上にも繋がります。
「上司に代わっても対応は変わらないです」は非推奨
時折、「上司に代わっても対応は変わらないです」といったトークを耳にすることがありますが、それはあまりお勧めできません。上記のトークは、尊大な印象を与え、「なんで上司では無いお前が“変わらない”なんて言い切っているんだ!?」といった新たなクレームネタを提供することになりかねません。
そのため、上記事例のように(上司も含めた)会社の方針として交代には応じていないとしたうえで、自らが責任を持って対応する、と回答することをお勧めいたします。
まとめ
「上司に代われ!」「社長を出せ!」といったセリフは、クレームやカスハラの常套句であり、筆者もこれまで何百回もそう言われ、また、上司としても対応して来ました。
今回ご紹介した考え方や対応例は、ごく簡単なものですが、実際のお客様対応においても、こういったことを知っているだけで鎮火できるケースは少なくありません(もちろん、もっと様々な要素を考慮し、難しい判断を迫られる場面もありますが)。
重要なことは、これが常套句であるからには、全ての従業員が同じように対応できるように、マニュアル化やトレーニングによって、組織に浸透させることです。そうでなければ、特定の担当者は悪質クレームやカスハラをブロックできたとしても、ブロックできない担当者がアタックされたときには、こっぴどくやり込められてしまう可能性があります。例えば、今回ご紹介した対応例を朝夕礼などで共有し、従業員とお客様に分かれて読み合わせてみるだけでも、具体的な対応イメージが掴めると思います。
もし、マニュアル化やトレーニングの仕組み作りについて、専門家への相談を希望の方は、お気軽に下記からご相談いただければ幸いです。