カスハラ対応事例 | 録画・録音のネットやSNSへの拡散から従業員を守る

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スマートフォンの普及により、カスハラの種類に、単にその場で暴力や暴言を受けるだけでなく、録画や録音をされ、それをインターネットやSNSで拡散されてしまうといった迷惑行為が加わりました。

録画・録音などのデータをインターネットやSNSで流出されることは、これをきっかけに事件化し、カスハラをした相手の逮捕に結び付いた例もあります。しかし、従業員・スタッフは、例えカスハラであっても精一杯対応しています。そのような従業員・スタッフが怖がっている様子を録画され、顔や声を面白おかしく加工された状態で、世界中から見られるように拡散されてしまったりしたら、例え事後的に逮捕されたりしたとしても、取り返しがつきません。

また、一度そのように流出されてしまったら、それをコピーしたり、SNSなどで紹介したり、といった拡散が簡単にできるので、インターネット空間から完全に削除することは困難です。

そこで本コラムでは、このような録画や録音、それらの拡散といったカスハラへの対策について、具体的に解説いたします。

カスハラ対応事例 | 録画・録音のネットやSNSへの拡散から従業員を守る

拡散されてしまったら回復は困難、いかに予防するかが重要

前述の通り、録画や録音のデータが一度インターネット空間に流出してしまったら、それを完全に削除することは困難です。

中には、IPアドレスからプロバイダに発信者情報開示請求をして損害賠償請求をするといったアドバイスや、肖像権(憲法13条)、施設管理権、プライバシー権などを法的な根拠として削除要請が可能であるといったアドバイスを耳目にすることもあります。しかし、それらはいずれも裁判所に申立をし、それが認められる必要があります。半年や1年の年月を要することも珍しくありませんし、その間に別な人が面白がって拡散させ、増殖していってしまう場合もあります。

また、それらの法的措置に要する時間やお金は、基本的に“ネット流出の被害に遭った側”が負担することになり、仮に損害賠償請求が認められたとしても、有名人でもない限り、長期にわたる訴訟費用を賄えるほどの額となることはほとんど無いと聞きます。

したがって、録画や録音への対策としては、最優先は『予防』であり、いかにしてそれをさせないかという点こそが、最も注力すべきポイントです。

具体的には、以下のような対策が考えられます。

『クレーム・カスハラ対策方針』を掲示する

『クレーム・カスハラ対策方針』に「無許可での録画や録音、それらのインターネット上への流出については、警察や弁護士と連携しながら厳しい対応をします」などと明記し、それをお客様の見える場所に掲示することで牽制する。

また、実際にお客様が録画や録音をしようとする素振りを見せたら、同方針を示しながら警告を行う。

厚生労働省のポスターを掲示する

厚生労働省が公開しているポスターには、カスハラの例として「SNSにアップしてやるよ」という声が紹介されています。

ですから、お客様からそれに類する発言が出た時点で、「なさっていることは(または、なさろうとしていることは)政府でもカスハラとされています。そもそも弊社は、録画も録音も許可をしておりませんので、お止めください」と警告しましょう。

また、厚生労働省のポスター掲示は、前述のカスタマー・ハラスメント対策方針の掲示と同様に、こっそり録画や録音を行おうとしているお客様に対しても一定の牽制効果があります。
あまりあからさまにやると、関係の無い大半のお客様に対しても息苦しさや監視されているような印象を与えてしまいますが、例えば、建物自体や待合室の入り口に大きく1枚掲示しておくなど、伝え方は工夫できるので、自社・自店舗でできないか、検討してみることをお勧めします。

明確に撮影の中止を要請する

上記のように牽制や警告を行っているにもかかわらず、強硬的に録画や録音をされてしまった場合は、基本的には、冷静に撮影中止を要請したうえで対応を打ち切るか、撮影内容が許容できないものであるなら警察を呼ぶか、の二択になります。

そもそも、商品やサービスの提供に際し、従業員を録画・録音する合理的な理由はありません。ですから、「撮影を許可していません」「撮影を止めて下さい」「お客様のされていることはカスハラであり、プライバシーの重大な侵害です」といったことを冷静に伝えたうえで毅然として対応を打ち切ってしまえば、万が一インターネット上に流出されてしまったとしても、拡散や炎上には繋がり難いです。

具体的な対応イメージ

ここまでの説明を踏まえて、具体的な対応の流れを見て行きましょう。
一度、録画や録音を始められてしまうと、こちらがそのスマホを奪って止めさせることができない以上、対応の難易度が上がります。そうならないように、録画や録音を始めようとした段階で、すかさず止めさせるようにします。

対応中に無許可で録画・録音をして来た場合

  • お客様:「お前らふざけた対応してっから、録画させてもらうから」
  • 従業員:お止めください。従業員にもプライバシーがあるので、当社敷地内での撮影は一切許可しておりません。直ちにお止めいただけないなら、警察を呼びます。
  • お客様:「じゃあ、顔が写らなかったら良いんだろ?」
  • 従業員:いいえ、敷地内での撮影は一切許可していないので、顔が写らなくても同様です。業務情報や他のお客様が写ってしまう可能性があるので、ご理解願います。
  • お客様:「うっせーな、じゃあ録音させてもらうから。それらな良いだろ?(と言って勝手に録音を始める)」
  • 従業員:録音も同様です。お止めください。
  • お客様:「録画はプライバシーつったけど、録音が何でダメなんだよ!?そこまでお前らに指図される覚えはねぇーぞコラァ!」
  • 従業員:私どもはこの施設の管理者として、この施設をご利用いただく全ての方に対しご不安を与えないようにする為、無許可での録画や録音は禁じております。ご理解いただけない場合は、これ以上の対応はいたしかねます。
  • お客様:「んじゃ許可しろよ。(監視カメラを指して)だいたいよー、お前らも録画してるじゃねーか。おめぇーらは堂々と録画しといて、俺が録画するのだけダメっつーのは、ちょっと筋が通らねーんじゃねーのか!?(または、「品質管理のためか知らねーけど、お前らは録音してんのに、俺が録音すんのはダメってのはおかしいんじゃねーのか!?」)
  • 従業員:私どもはプライバシーポリシーや情報の用途を公開し、ご納得いただいた方に対し録画や録音を行い、事前に公開した用途に限って利用しています。ですがお客様からは、そのようなプライバシーポリシーや用途の提供も受けておりませんし、私どもが許可をした訳でもございませんので、お止めいただくようにお願いします。
  • お客様:「言い訳ばっかしてっけど、その言い訳も全部録音してっから、バッチリ公開してやっからよ」
  • 従業員:お止めいただけないとのことなので、残念ですが、警察を呼びます(すぐさま通報を指示する)。
  • お客様:「ふざけんなよ!?」
  • 従業員:削除していただけるなら、我々から警察に和解したと伝えることもやぶさかではありません。ですが、削除いただけないなら、後のお話しは警察でなさってください。

どうしてもデータを削除させたければ、躊躇なく警察を呼ぶ

例えば顔を撮影された可能性があるなど、どうしても相手のスマホを確認したり、データを削除させたりしたければ、躊躇なく警察を呼びます。理由は、私企業に過ぎない我々が、実際に録画や録音をされたかどうか相手のスマホを無理矢理調べることはできないので、警察に確認してもらうためです。また、警察を介することにより、こちらに共有はされなくても、相手の身元が警察の記録に残るので、事後にまたその時の動画が拡散されたような場合には、速やかな被害届などが可能になります。

細かく言えば、警察も令状無しで強制的に捜査することはできません。しかし、こちらがちゃんと通報した経緯を説明し、プライバシーの観点から、録画データを削除してくれないなら事件化して欲しいと強く求めれば、相手にも相応の警告がなされます。そして、警察から、例え任意ではあっても「勝手に録画したらダメですよ」「ちゃんと削除してください」と叱られたら、極めて強いプレッシャーであり、それに耐えてなお録画や録音を強行することは、よほどの強心臓であったとしても、現実的にはほぼ不可能です(ほとんどの場合は、興奮のあまり、それが任意での質問や要請だということ自体を意識できません)

前述の通り、組織のルールに従って真面目に仕事をしていただけの従業員にとって、自分の顔や音声がインターネット空間に流出し、誰でも見られる状態になってしまうことは、途方も無く大きなストレスです。しかし、一度流出した録画や録音を、完全に削除することは難しいため、手元で確認できる段階で躊躇無く警察を介入させることをお勧めします。

こっそり録音されてしまうこともある

録画は、複数なら別ですが、1人なら気付かれずにこっそり行うことは困難です。
しかし、録音の場合は、いちいちこちらに通告せずに秘密裏に(こっそりと)録音されることもあり、こちらが気付かないようにすることも簡単です。また、インターネット上に流出させる場合にも、少し音声を変えた状態にしておき、それを企業側が削除要請したりすれば、ここぞとばかりに「会社が認めた」「圧力をかけられた」と言われる可能性もあります。

したがって、録音対策として最も重要なことは、非常に基本的なことではありますが、最初から録音されても問題無いような対応を徹底することです。具体的には、礼儀正しい言動、迅速で的確な対応、商品やサービスに対する豊富な知識、顧客の立場に立った臨機応変な対応、顧客満足度の向上などです。また、これらは必要性を理解できたとしても、その日からすぐに実施できることではありません。ですから、手に余る場合は周囲の助けを借り、相談しながら対応するような体制も重要です。

そのような対応と並行して、前述のように、基本方針や厚生労働省のポスターを掲示することで牽制したり、道義的な謝罪と事実に対する謝罪を使い分けたり、といった防衛的な対応をすることで、こっそり録音のリスクや影響の低減を図ります。

まとめ

これまで説明して来た通り、カスハラにおける録画や録音は、される前の予防が極めて重要であり、掲示物などで牽制して行くことが有効です。
一方、そういった牽制をしてもなお強引に録画・録音をされたり、ましてやそのデータをインターネット上に流出されてしまったりすれば、事後的に被害を解消することは困難です。そのため、録画や録音に気付いた時点において、対応している従業員・スタッフの対応が重要です。そして、その時点時点で従業員・スタッフが適切に対応するためには、具体的な事例に基づいたマニュアルやトレーニングが不可欠です。
カスハラ対策について専門家にご相談を希望の場合は、ぜひ、お気軽にご相談下さい。

カスハラ、対策、相談
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花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。