クレーム・カスハラの対策共有会議 「振り返り」の5つのポイント

クレーム、クレーマー、カスハラ、会議

悪質なクレームやカスハラは、基本的にはそれを行う側が責められるべき問題です。
しかし、企業側に全く隙が無く反省すべき点が皆無かったかと言うと、そうでは無いケースがあるのも事実です。そのため、クレーム対応は昔から「貴重なご意見」「改善の機会」と表裏一体で語られ、近年のカスハラ対策でも、厚生労働省のカスハラ対策マニュアルや東京都カスハラ防止条例などにおいて、マニュアルを作成し従業員の対応を平準化することが求められています。

実際問題として、クレームやカスハラへの対策では、せっかく苦労して対応しても、改善すべき点を改善し発生原因を除去するなど、再発防止策を講じなければ、最悪の場合、また同じことが発生する可能性があります。一方、クレームやカスハラの情報を組織知として活用するため振り返りを行おうとしても、ただ単に対応の起承転結をなぞって意見を言い合うだけでは、あまり生産的な議論にはなりません。ハードクレームやカスハラは、対応する従業員のストレスも甚大です。ですから、そのような従業員に対し、その場で対応した訳でも無い者が後から訳知り顔でコメントだけされては、モチベーションを大きく低下させ、「ならあなたが対応して下さいよ」となりかねません。筆者の個人的な感想としては、スペックやプロセスなど外形的な要素を議論できる製造業に比べ、スキルやマインドなど個々の従業員の影響度が大きいサービス業では、よりその傾向が強く、振り返りが難しいように感じます。

そこで今回は、上記のような背景を踏まえて、主にサービス業を想定したクレームやカスハラの振り返り=対策共有会議の進め方や、議題に挙げる5つのポイントについて、解説いたします。

クレーム・カスハラの対策共有会議 「振り返り」の5つのポイント

会議体の設計

業種、業態、商材、事業規模、クレームやカスハラの状況などによって開催頻度は様々だと思いますが、定期的に振り返るための会議体を設定します。

単独で会議体を設けることが難しければ、経営会議や全社会議など、経営幹部が参加する会議体の中で一定の枠を設けてもらうのも一法です。お勧めは、顧客満足度、顧客ロイヤルティ、CX(カスタマーエクスペリエンス)などの検討会議とともにクレーム・カスハラの対策会議を開催することです。両者は必ずしも、一直線上の両端にあるという訳ではないですが、自社の顧客対応に関するプラスとマイナスの両方の課題を一括して議論することは、顧客対応状況の全体に対する理解促進に繋がります。
また、クレームやカスハラの原因は多岐にわたるため、参加メンバーは顧客対応部門に限定せず、サプライチェーン全体からメンバーを選出してもらうとともに、メンバー以外でも傍聴可にすることをお勧めします。

ポイントは、以下の3点です。

  1. 自社のクレームやカスハラの状況を社内に共有し、一人ひとりの従業員に当事者意識を持って対応してもらうこと
  2. 組織としての在るべき姿を明確に示し、そこに向かって歩を進めること
  3. 議論や検討の経過を記録に残し、何かあった時にいつでも振り返れるようにすること

そのため、広く参加を認め、意見も取り入れることが望ましいですが、それらを踏まえた評価・決定ができるよう、顧客対応の管掌役員をはじめとした経営層が参加できるようにタイミングや参加方法などを調整し会議体を設計しましょう。

対策共有会議で共有する内容

会議では、予め基本的な報告事項を決めておき、定点観測することで、状況の変化を迅速に察知し柔軟に対応します。
具体的には、以下のような情報を共有し、対策を講じて行くことをお勧めします。

クレーム・カスハラの全体傾向

自社のクレームやカスハラについて、件数、カテゴリ、案件レベルなどの定量的な情報を時系列でまとめ、傾向変化を予測して、先手先手で対策を講じます。
例えば、毎月10件くらいしか発生していなかったクレームやカスハラが急に30件になったことを把握したなら、今後50件100件と増え続けないように、確実に原因を除去します。また、件数は増えていなかったとしても、発生状況などが上半期と同じ傾向だったら、新たな出来事などが生じない限り下半期も同傾向となる可能性があります。そのため、前年の下半期の対策会議の記録などを確認し、有効だった対策を予め講じておく、といったことが考えられます。

顧客の声(VOC)と従業員の声(VOA)

クレームやカスハラであっても、丁寧に状況を確認し、真摯に声を聴くことで、自社の商品やサービスに改善の余地が見付かることはあります。

VOC: Voice Of Customer

電話、メール、対面など様々なチャネルを通じて寄せられるお客様の声の総称です。
ただし、お客様は自社に何らかのメッセージを下さる時、改善策を意識していることはほとんどありません。ですから、VOCを有意義なものにするためには、印象的なコメントをピックアップするだけでなく、例えばそれらの件数を定点観測するなどし、数値とセットで考えるなどの工夫も必要になります。

VOA:Voice Of Agent

従業員からの改善提案を指します。
お客様から直接改善提案をいただければ、大いに価値のあることです。ただし、お客様は自社の商品やサービスに対し必ずしも詳しい訳でも無く、また、正確に状況を把握しているとも限りません。そのため、顧客対応を担当している従業員にお客様の状況を踏まえ、「その問題を予防するためには何をどう改善すれば良いか」を提案してもらいます。
特に、業務に熟知した従業員からの具体的な改善策は、マネジメント層でも気付かない貴重なヒントになることもと少なくありません。

VOC・VOAの活用イメージ

よくある例として、一般的に「カスハラ」とは、店頭で怒鳴りながら執拗に謝罪を要求したり物や机を殴ったりなど、従業員が迷惑や恐怖を感じるような言動をする顧客を指して呼びます。しかし、顧客対応の現場においては100対0で全面的に顧客が悪く、従業員には一切非が無いといったケースばかりではありません。
もちろん、上記の様な態度はカスハラに該当する可能性があり、擁護するつもりは全くありません。しかし、例え顧客の態度がカスハラに該当したとしても、そのカスハラへの対応の中で従業員が「不貞腐れた態度を取った」「解決策よりも会社の都合を優先した言動をとった」といったVOCを把握できたなら、真摯に受け止め改善活動に繋げて行くことが、商品やサービスの向上に繋がります。

一方、上記のようなヒューマンエラーが無い場合でも、例えば上司のヘルプのタイミング、店内掲示物による注意喚起、チラシや契約書への但し書きなど、ロジックエラーの解消がカスハラの防止に繋がる可能性はありますが、それをお客様に提案してもらうことは困難ですし、そもそも自社の商品やサービスへの改善案はお客様に求めることでもありません。そのため、目安箱や改善提案制度などを用意するとともに、しっかりと評価してあげることで、業務を熟知した従業員からのVOAが集まりやすいようにすることが極めて重要です。

対策共有会議では、このようにして集めたVOC・VOAを共有することで、関係者に顧客対応現場の声を知ってもらうとともに、速やかに判断し改善策を講じて行きます。


クレームやカスハラへの組織的な対策において、実際に顧客対応を担当する従業員の意見を聴くことは極めて重要です。強いプレッシャーの矢面に立つ従業員にとって、「ちゃんと実態に合っている」「当事者意識を持って真剣に考えてくれている」「これをやったら何とかなりそう」と思ってもらえなければ、どのような対策であっても画餅となり、効果を期待することはできません。
しかし、だからと言って従業員の意見を全て受け入れてしまえば、仕事にならないのは火を見るよりも明らかです。実際、筆者が知るあるコールセンターでは、オペレーターにおもねり過度に意見を重視した結果、以下のような結果となって例がありました。

■背景
・あるメーカーの修理センターでは、クレームを嫌ったオペレーターの退職を減らすため、新任アシスタントマネージャー(上司の立場だが、特別なスキルはない)をクレームの専任担当者に任命。
・その結果、元々クレーム対応をしたくなかった現場スタッフは、自分の対応が原因のようなクレームでも、簡単にその上司に押し付けるようになってしまった。

■会社の意向
上記のアシスタントマネージャーはセンター長に相談したが、
『オペレーターは「クレーム対応が嫌だ」と言っている。君はマネージャーなんだから頑張れ』
と言われるだけで、支援を得られなかった。  

■その結果(約8か月後)
・クレームを押し付けられた上司は、定常業務が回らなくなってしまった。
・現場がひっ迫したうえ、センターの雰囲気が極端に悪化した。
・上司自身がメンタルヘルス不調で長期休職の結果、退職となった。

会社が、在るべき姿や対応方針を全く示さず、単に「従業員がクレーム対応を嫌がっている」という理由だけを取り上げ、新任のアシスタントマネージャーにクレーム対応を押し付けたことは、明らかに不適切です。この場合の適切な対応は、オペレーターの主張をそのまま受け入れるのではなく、組織の長が従業員に対しクレーム対応の意義を丁寧に伝え、原因を考え、対策を講じ、場合によっては二次や三次として顧客対応を実施するなど、コミットした姿を見せることでした。

このように、クレームやカスハラへの対策を講じる際には、従業員の意見を聴くことと組織としての方針や計画とのバランスが重要です。当社は、代表の花村はコールセンターの品質管理マネージャーとして長年の経験を有するだけでなく、経済産業省に登録している中小企業診断士でもあり、管理側の経験も豊富です。
仕組みを作ったが上手く動かない、管理側の想いと現場との間にギャップを感じる、といったことがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

カスハラ、対策、相談

共有、評議、決済など

直接的なクレームやカスハラの情報ではなくても、全社的に共有しておくべき情報や評議・決済をすべき情報を盛り込みます。具体的には、以下のような遅延が許されず全社的に足並みを揃えるべき活動に対する進捗状況などが挙げられます。

  • 法令への対応
  • 次期の目標や活動計画
  • 基幹システムの変更
  • ガイドラインや規程に関わること
  • 全社教育計画

ポイントは、単にクレームやカスハラの情報、それに関連した取り組みの情報を共有するだけでなく、経営が一つ一つの取組が組織としての在るべき姿、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)、ガイドラインなどに結び付いているか否かをきちんと評価し、全社最適の視点から指示を出して行くことです。そうすることにより、現場で実際にクレームやカスハラに対応している従業員の負担を軽減し、当事者意識を醸成し、現場の暴走を防ぎ、組織として意義のある活動に繋がります。

案件への対応方針

報告項目の冒頭で、クレームやカスハラの全体傾向として定量情報を共有することをお勧めしましたが、それだけでなく、報告内では必ず、案件の定性情報も共有します。できれば、録画や録音など実際の対応状況が分かる情報があれば良いですが、無い場合でも、具体的な対応の経過を記した報告書などを共有しましょう。なお、報告書の場合には、一般的には感情的・情緒的な情報は好まれないことが多いですが、クレームやカスハラの状況について臨場感を持って伝えるためには、従業員の声として「壁を叩かれたのが怖くて震えが止まらなくなった」「アルバイトの○さんが怒鳴られて泣いてしまった」といった情報も含めることをお勧めします。
他所でも伝えましたが、報告内容が例えば「無償修理2件」「返金1件」といった数値情報だけだと、実際に顧客対応をしていない人にとっては「そのくらいなら必要経費かな」など、軽視されてしまう場合があります。そのため、できれば動画や録音、それらが無い場合でも感情の起伏も含めた報告書でリアルな状況を関係者に共有した上で、それを踏まえた対応方針や着地点を示し、多角的に検討しながらブラッシュアップして行くことが有効です。

同時に、こういったリアルなクレームやカスハラの情報に基づいて、例えばKPTやYWTのようなフレームワークを活用することで、目前の対応方針を論じるとともに、抜本的な再発防止策を講じ、万が一次回発生した場合のより良い対応に繋げて行きます。

KPT

  • Keep:良かったこと、続けたいこと
  • Problem:問題、うまくいかなかったこと
  • Try:次にやってみたいこと、Pに対する解決策

YWT

  • Y:やったこと
  • W:わかったこと
  • T:次やること

関係者のフィードバック

対策共有会議では、最後に必ず、主要な参加者からコメントをもらうようにしましょう。できれば、会議内で検討の時間を取り、意見交換すると更に効果的です。そうすることにより、会議が回を重ねても参加者が自分事としてとられる可能性が高まります。

ポイントは、実際にそのクレームやカスハラに対応した従業員だけでなく、検討に参加した社内の様々な従業員が仮想的に経験を共有することで、今後自分が類似のクレームやカスハラに対応する場面に出会っても、落ち着いて適切に対応できるようにすることです。そのため、事例を見聞きして「こういった対応は考えられないだろうか」といった意見を提示することには全く問題ありませんが、外堀から対応者を批判し委縮させるようなことが無いように、当事者意識を持って検討に参加することが重要です。そういった内容を議事録にも記録することで、会議に参加できなかったメンバーにも知見の共有が可能となります。

また、案件への対応については、組織によっては「クレームやカスハラは個人の力量次第」といった考え方が根強く残っている場合があり、特にB to Bのカスハラでは、そういった考え方が担当者を深刻に追い詰めます。そのため、担当者個人ではなく組織の問題であるという考え方を経営層が繰り返し明確に示して行きましょう。

まとめ

クレームやカスハラの対応は、担当者にとって大きなストレスです。長年それを仕事にし、訓練を受けて来た私であっても、毎回、動悸が激しくなり脇の下に嫌な汗をかくのを感じながら対応しています。そのため、対応が終わるとつい、開放感から「これ以上この件に煩わされたく無い」と思い、振り返りがおざなりになりがちです。

しかし、クレームやカスハラに強い組織を作るたことは、一朝一夕では不可能です。マニュアルや研修など事前の対策で備えるとともに、ヒヤリハットの段階から実際に発生した場合も含め、その都度具体的に振り返って、顧客対応、商品やサービス、社内の運用やルールなど様々な要素を継続的に見直して行くことが不可欠です。再発防止策を講じる際も、適切に振り返りができていなければ対処療法にしかなりません。

そのため、少し気が重く感じるかもしれませんが、自社のクレームやカスハラの対応レベルや顧客満足度を高めるためには、必ず振り返りをするようにしましょう。発生ベースでやろうと思ってもなかなか上手く行かないので、予め定例化しておくことがお勧めです。

振り返りについて専門家に進め方を相談されたい場合は、ぜひ、お気軽にご相談ください。

レクーム カスハラ
著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。