クレーム・カスハラ対応 | 飲食店など対面接客で「態度が悪い」と言われたら

飲食店など対面接客の仕事は、それ以外の仕事に比べ、クレームやカスハラに対して以下のようなリスクがあります。
■お客様が従業員に直接接触できるため、凄まれたり詰め寄られたりする場合に強い恐怖が伴う ■従業員の顔や名前を見ることが出来る(覚えられてしまう)ため、毅然とした態度に逆上された場合、個人攻撃の標的にされることがある ■商品やサービスに対する不満だけでなく、服装、表情、姿勢、言葉遣いなど、「態度が悪い」といったクレームやカスハラが起きやすい |
リスクだけでなく、飲食店など対面接客業のクレームやカスハラの対応は、特有の制約があります。例えば、コールセンターやバックオフィス業務なら、お客様から態度は見えないので、マニュアルを見ながら対応したり身振り手振りで上司を呼んだりできますが、対面接客の場合はそうは行きません。
また、対応中だけでなく、クロージングにおいても制約はあります。電話やメールなら、多少強引に対応を打ち切ることもできますが、対面接客の場合、激怒し居座っているお客様に対し「電話を切る」のような簡単な方法はありません(ただし、電話の場合も不適切な切断を録音される可能性はあります)。対面接客の場合でも、警備を呼ぶなど半強制的に対応を打ち切る手段はあります。しかし、そうすると更に物々しい状況になったり、お客様が逆上して騒いだりするなどして、他のお客様の満足度を下げることになりかねないため、やはり簡単ではありません。何より、そもそも自社の不備が発端の場合は、対応を打ち切ること自体ためらわれます。
このような注意点を踏まえて、本コラムでは、飲食店などの対面接客業で「態度が悪い」と言われた場合の対応について、具体的に解説します。
クレーム・カスハラ対応 | 飲食店など対面接客で「態度が悪い」と言われたら
従業員に対し「態度が悪い」と言われたら
まず、「態度が悪い」としては、以下のような言動が挙げられます。
- 説明が分かりにくい
お客様の訊かれたことに答えられていない、前置きが長い、言い訳が多い、など - 態度が不適切
溜め息、不貞腐れ、返事をしない、お客様を睨んでしまう、など - 発言が不適切
ため口、喧嘩腰、個人的発言、他人事的な発言、セクハラ的発言、差別的発言、など - 身だしなみがだらしない
不潔、臭い、ちゃんと着ていない、など - 顧客の問題解決になっていない
接客のレベル自体が低い(ミスの頻発や、何をしたら良いのか分かっていない)、企業の都合を優先している、次善策や代替案を提示しない、など
このような態度がクレームの原因になりやすい理由としては、商品やサービスへの不満は物に向くのに対し、「態度が悪い」に対する不満は人=その従業員個人に向きやすいことが挙げられます。具体的には、「さっきから溜め息しているけど、あなたのそういう態度に腹が立っているって分かってる?」など、従業員個人に対して非難がストレートにぶつけられます。
特に、発端が商品やサービスの不具合であるにもかかわらず、それに対するクレームをつけたお客様に対し、従業員が「態度が悪い」に該当するような対応をしてしまった場合、「こっちはお前らが間違えたおかげで迷惑してんのに、なんだその態度は! 今すぐ社長を呼んで来い!」など、物への不満と人への不満が複雑に結び付いたハードクレームになりがちです。そして、そうなってしまうと、解決も一筋縄では行かなくなります。
なお、上記の例に該当せず、具体的な言動の指摘がないまま「態度が悪い」と言い続ける場合には、「当店で気付けていないことがあれば具体的にご指摘下さい。そうでなければ、当店では今のところ、“態度が悪い”とは認識しておりません」など、毅然とした態度で突き放しましょう。
「態度が悪い」と言われたら、速やかに謝罪する
人対人の接客である以上、残念ながら「態度が悪い」と言われるような対応が発生してしまうことはありますが、そのような場合は何よりも、速やかに謝罪しましょう。
対策本の中には、事実関係を認めるような謝罪はせず、心情に対する謝罪に留めることを推奨するものもありますが、ここではもう少し踏み込んで謝罪することをお勧めします。具体的には、「溜め息は不適切な態度でした。誠に申し訳ございませんでした」など、事実に対し簡潔に謝罪します。
態度の悪さについて、具体的な言動を指摘されている場合には、「ご気分を害されたなら謝罪します」といったふんわりとした謝罪では、「言い訳しながら謝罪するな!」と更なるお怒りを呼び、最悪、カスハラに発展する可能性もあります。そのような事態を呼び込まないように、「態度が悪い」とご指摘いただいたら、速やかに謝罪しましょう。
ポイントは、謝って済ませられるうちに済ませることです。当サイトでは、クレームやカスハラについて様々な対策を紹介していますが、最大の対策は揉める前に鎮火させることです。もちろん、嘘も方便で謝るポーズをとっても、見破られてしまえば更なる火種になるだけです。しかし、上記「態度が悪い」の例に当てはまる言動があったなら、まずは真摯に謝罪することが重要であり、大半はそれで治まります。
最大の対策は、平時からの適切な対応
「態度が悪い」に起因したクレームへの最大の対策は、そう言われないような適切な対応をすることに尽きると言えます。
昨今、カスハラに対する社会的な認知度が高まっていることで、例え自社や自分自身に一定の原因があっても、お客様がちょっとでも強硬な態度をとると、あからさまに敵対的な態度をとったり、原因に対する解決策を提示しなかったりなど、自ら「態度が悪い」と言われるような対応をするケースを耳目にすることが増えました。しかし、そのような態度を他のお客様に見られたら、他のお客様にまで「態度が悪い」と思われかねません。
もちろん、カスハラはいけません。しかし、同様に上記例のような態度も、接客業として相応しい物ではありません。そして、そのような態度を無くすことは、カスハラの予防になるだけでなく、顧客満足向上にもつながるはずです。そのため、従業員に対し在るべき態度を示し、実行できるように促して行くことは極めて重要です。
個別の「態度が悪い」に対するクレーム対応だけでなく、同様のクレーム・カスハラを組織全体として削減するためには、推奨と非推奨の行動規範を作り、全従業員が同じく理解できるようにマニュアルを作成し、実践できるようにロープレやモニタリングなどの実践型研修をして行くことが有効です。
そういった仕組み作りについて専門家にご相談を希望の方は、当社でも承っておりますので、お気軽にご連絡ください。

【参考記事】
カスハラ対策 | 基本方針・ガイドラインの作成方法を、3ステップで具体的に解説
使えるクレーム・カスハラ対策マニュアルの作成 | 3ステップで解説
謝罪すべき点と解決策を提示すべき点を分けながら、理不尽な要求を牽制する
飲食店など対面型接客では、電話やメールと違い、強引に電話を切って着信拒否にしてしまう、といった解決方法は採れません。そのような方法を採っても、店頭で大声を出されたら他のお客様にとって迷惑ですし、ヒートアップして写真や動画を撮られネットに晒されたり、実際に暴行を受けたりといったカスハラを受ける可能性もあります。
また、従業員が暴行の被害者になる場合だけでなく、加害者になってしまう場合があることにも注意が必要です。お客様が乱暴をして来たとき、専門の訓練を受けていない従業員が適切に対応することは困難です。例えば、お客様が額がくっ付く距離まで顔を近づけて怒鳴って来たり、肩でグイグイ押し込みながら詰めよって来たりしたからといって、つい押し返してしまったりしたら、最悪、相互暴行となる可能性もあります。
そのため、お客様をヒートアップさせないように上司に交代したりし、謝罪と解決策を分けて、理不尽な要求に対しては丁寧に牽制して行きます。
事(態度)と物(商品・サービス・費用)を分けて対応する
謝罪だけではご納得いただけない場合の基本的な対応は、物(商品・サービス・費用)と事(態度)を分けることです。
事(態度)へのクレームに対しては、前述の通り早期かつ真摯な謝罪が重要です。そうすることで、以降の対応を物(商品・サービス・費用)に集約させ、感情論と切り離した解決策を提示して行きます。
一方、物(商品・サービス・費用)へのクレーム対しては、直接損害への等価交換を原則に解決策を提示します。例えば、飲食店で料理を間違えてしまった場合には作り直すことであり、オーダーを通し忘れてしまったならその分のお代はいただかないことが、洋服に飲み物をこぼしてしまった場合にはクリーニング代が該当します。
もちろん、満足度を大きく下げるような事に対するクレームが発生したら、お詫びしたうえで、割引券やドリンクをサービスする、といった行為を否定するものではありません。しかし、「態度の悪さ」にいつまでも固執し、物への優遇を要求される場合は、時には以下の様に毅然と突き放すことも必用です。
- 事へのクレームは会社としてクローズ済みであることを伝える
「態度が悪い」とのご指摘は真摯に受け止め、既に十分な謝罪をしました。ご納得いただけなかったとしても、当社ではこれが精一杯の対応です。 - 物へのクレームに対し解決策を提示し、お客様に選んでいただく
もちろん、クリーニング代は全額当店で負担します。ただ、お召し物を買い替えされた場合でも、当社の負担額はクリーニング代が上限です。即答いただかなくても結構ですので、一度、ご検討いただけないでしょうか?
「それ(態度)はそれ、これ(ハードクレーム・カスハラ)はこれ」で対応する
こちらが突き放していると感じたら、更に攻撃的な態度をとって来たり、過剰な要求をして来る場合があります。そのような場合には、「それはそれ、これはこれ」が原則であり、カスハラ的な言動は以下の様に牽制して行きます。
「あいつ本人に謝罪させろ」などと言われたら
店内で起きたことは全て、店長である私の責任です。本人の態度が悪かったことについては、本人に代わって私からお詫びいたします。誠に申し訳ございませんでした。
(個人攻撃になり、更なるトラブルになりかねないので、基本的には上司が対応する)
「あいつをクビにしろ」などと言われたら
お約束は致しかねます。ただし、今回の件やお客様のご意見は社内でもしっかりと共有した上で、本人に対しても指導なりを行っていきますので、それでご容赦下さい。
「納得できる謝罪が無ければ料金は払えない」と言われたら
恐れ入りますが、当店では既に十分な謝罪をしたと考えており、御食事代を払っていただけないなら、警察に相談せざるを得ません。それを踏まえて、もし謝罪に不足があるとお考えでしたら、何が必要か具体的に教えていただけますでしょうか。
大声で怒鳴り散らして来たら
他のお客様のご迷惑になりますので、お平らにお願いいたします。
当店は誠意をもって対応する所存ですが、カスハラ的な言動に対しては警備の者を呼ぶことになっておりますので、ご承知おきください。
撮影される、詰め寄られる、小突かれる、などの場合は
お止めください。そのような対応をされると、私もとても怖いですし、お止めいただけないなら警備の者を呼びます。
飲食店などの対面型接客業では、複数名で対応する時には予め役割を決めておく
飲食業などの対面型接客業では、クレームやカスハラが発生すれば、他の店員もすぐに気付きやすく、集まって来てくれやすいです。このような複数名対応については、厚生労働省のカスハラ対策企業マニュアルでも推奨されていますし、カスハラを受けている従業員にとって心強い面もあると思います。
しかし、当社では必ずしも複数名で顧客対応することが効果的だとは考えておりません。ハードクレームやカスハラへの対応は、プレッシャーも大きく難易度も高いうえ、お客様の眼前で細かく相談できる訳でもないので、複数名だからといって、適切な対応ができるとは限りません。下手をしたら複数名で対応すること自体が火に油となり、「お前の態度が悪いから怒っているのに、寄って集ってどういうつもりだ!」と、お客様がかえって逆上してしまうことも考えられます。他所でも書きましたが、土下座事件として報じられたしまむら様の事件では、店員さんは2名だったと報じられています。
そのため当社では、単に「複数名で対応すること」とするのではなく、対応者の具体的な役割を予め決めておき、実際にカスハラが発生したら、その役割に沿って機械的に対応をして行くことをお勧めしています。
お客様との直接対応をする役割
最初にお客様から声をかけられた従業員が担当する可能性が高いですが、困難な場合などでは、速やかに上司や先輩に交代しましょう。
なお、上司や先輩であっても、必ずしも十分な知識・スキルを持っているとは限りません。クレームやカスハラに対応する可能性がある人は、組織として必要なトレーニングを受けさせるなどのフォローをすることをお勧めします。
関係先への連絡をする役割
社内の関係部門や警備など、その場にいない宛先に連絡し、状況を報告しましょう。
この時、あえてお客様の見える位置で電話をすることで(かつ手が届かない位置で)連絡することにより、強い牽制効果を生みます。
記録を取る役割
お客様の言動や従業員の対応を時系列に沿って記録して行き、報告書などにまとめます。
なお、お店によっては監視カメラなどで自動的に記録されている場合もありますが、そのような場合にも、あえてお客様に見えるように監視カメラが動いているか確認することにより、強い牽制効果を生みます。
まとめ
飲食店などの対面型接客業では、目の前にお客様がいるので、乱暴な態度を取られると恐怖を感じますし、実際、怒鳴られたり小突かれたり場合があります。事業者としては、安全配慮義務の観点からも、上記のようなリスクから従業員を守る必要があり、そのためには、対面型接客業としての特性を踏まえた組織的な対策が極めて重要です。
ですが、それらの対策は、決してクレーマーやカスハラ顧客を優遇することにより穏便に済ませるものではありません。他の業種・業態と同様に、「事と物を分ける」と「それはそれ、これはこれ」を原則として丁寧に対応しながら、カスハラには毅然と牽制して行くことが基本的な対応です。
問題は、頭では理解していたとしても、手が届く距離にいるお客様から乱暴な態度で凄まれ、「お前の態度が悪いからムカついてるんだよ!!!」と個人攻撃をされたら、強い恐怖とプレッシャーがかかり、理解した通りに冷静な対応をするのが難しいことです。
ハードクレームやカスハラへの対応においては、頭で理解する知識とそれを実行するスキルとを一致させる活動が不可欠です。当社では、基本的な考え方や対応方法のコンサルティングだけでなく、具体的な対応の研修や、実践スキルを身に着ける研修により、クレームやカスハラに組織的な対策を支援しております。
クレームやカスハラにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談下さい。
