【風評被害への対策】ネットだけじゃない 事実無根でも影響は深刻です

風評被害 ネット 炎上 対策

企業が一旦、風評被害を受けると、多大な悪影響が生じてしまいますし、風評被害からの回復には長い時間とコストがかかってしまいます。風評被害を受けた場合は、デマ情報等の発信者への刑事責任の追及や民事上の損害賠償請求により対処することもできますが、風評被害の完全な回復は難しいものです。

重要なことは、風評被害を受けないように予防的対応を取ることと、迅速かつ冷静な広報活動により風評被害が生じた場合にダメージを最小限に抑えることです。

【風評被害への対策】ネットだけじゃない 事実無根でも影響は深刻です

風評被害とは

企業の風評被害とは、どのような状況に陥った状態をいうのでしょうか。
具体例を交えながら説明します。

企業が風評被害を被った状況とは

風評被害とは、事実無根のデマや情報が拡散したことにより、企業に悪影響が及んでいる状態のことです。
悪影響の例としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 顧客離れ
  • 株価の下落
  • ブランドイメージの低下
  • 採用活動が難しくなる
  • 社員のモチベーションの低下

風評被害により、短期間で大きな損失が生じる他、悪影響を抑えて、被害から回復するために長い時間と労力、費用が掛かってしまうことが問題です。

風評被害の具体例

有名な風評被害の具体例としては、福島第一原発事故により福島県の農産物が風評被害を受けている例が挙げられます。

福島第一原発事故の直後は、福島県産の様々な農水産物が忌避される形で大きな風評被害を受けました。農水産業者だけでは対処しきれず、政府も風評被害払しょくのために動きましたが、海外から輸入規制を受けるなど、十分な被害回復には至っていません。
最近では、福島第一原発の処理水の海洋放出により、中国からいわれのない批判を受け、水産物の輸入が規制される被害を受けています。

《参考記事》
https://www.nhk.or.jp/fukushima/lreport/article/000/24/

企業は常に風評被害の危機にさらされている

上記で紹介したような大きな風評被害だけでなく、企業は日々、風評被害の危機にさらされています。
従業員の不用意な発信、ステークホルダーによる口コミサイトやSNSの投稿がきっかけで、上記で紹介したような悪影響が出てしまうこともあります。

適切な広報活動によりリスクを減らし、事態が好転する場合もある

企業が様々な風評被害を受けても、その後、適切な広報活動を行うことにより、事態を好転させることができる場合もあります。

具体例をいくつか見ていきましょう。

新型コロナウィルス感染症拡大時に「コロナ」の社名がついた会社が風評被害を受けたものの、新聞の全面広告により立ち直った例

石油ストーブなどを製造販売している新潟県の株式会社コロナは、新型コロナウィルス感染症と無関係であるにもかかわらず、様々な風評被害を受けました。社員やその家族が個人的な嫌がらせを受けたこともあったようです。いわれのない風評被害を払しょくするために、新聞の全面広告を打ち出して、全国から反響を呼び起こしました。

新潟新聞によると、そういった新聞広告を行ったきっかけは、コロナ後、子どもを持つ社員のお母さんたちが『最近、子どもがおかしい』とか『お母さん、コロナなんか辞めちゃえば』といったことを言われたことに心を痛め、子どもたちに対し心配しないように伝えたかったとのことです。
筆者もこの広告を見ましたが、いわゆる製品広告とは全く違い、明確に社員とその家族を対象としてメッセージを伝えた、真心の伝わる広告でした。実際、NHKや民放から取材を受けるなど、全国のメディアに取り上げられたことから、却って、全国から励ましのメッセージが届いたことで社員の士気も上がり、コロナと同じ名前という理由で拒否されることもなくなりました。

社員からの報告を軽視せず状況を把握し、社員とその家族にターゲットを絞ったメッセージを明確に打ち出したことで、風評被害を乗り越えた素晴らしい広報活動の例だと思います。

《参考記事》
https://www.niikei.jp/43920/

『ワクチン入りトマト流通プロジェクト』としての不買運動に対し、迅速な公式発表により収束した事例

新型コロナウイルスの感染拡大時は、ワクチン接種が推奨される一方、ワクチンに反対する人も一定数いました。

そんな中で、ワクチン入りのトマトが開発されて、市場に出回るとの真偽不明の情報が出回りました。
「ワクチン入りトマト流通プロジェクト」と称して、カゴメやカルビーなど、実在する大手企業の名前も紹介されていました。そのために、ワクチンに反対する人たちが中心となってこうした企業の不買運動を呼びかける動きも起き、名指しされた企業はいわれのない風評被害を受けました。

名指しされた企業の多くは、直ちに事実と異なる情報であるとの公式の発表を行い、事態は収束しました。
こちらも、ネット上の噂と軽視せず自体を迅速に把握し、各社が冷静かつ迅速に対応したことで、大きな風評被害になることを回避した広報活動の事例です。

《参考記事》
https://www.bengo4.com/c_23/n_13447/

風評被害と刑事責任の追及

風評被害を受けた場合、風評被害の原因となる情報を発信している人に対して刑法上の責任を追及するべきだと考えることも多いと思います。デマ情報を流している人に対してどのような罪を問える可能性があるのか見ていきましょう。

【補足】
ここで紹介する例は、経営コンサルタントであり、中小企業診断士/PRプランナーである筆者の知識と経験による参考情報であり、内容を保証するものではありません。
実際の対応時は、弁護士などの専門家への相談もご検討することをお勧めします。

名誉棄損罪

名誉棄損罪は、評価を低下させるに足る事実を公然と告げた場合に成立する犯罪で、その事実が真実であるかどうかは問いませんし、現実に社会的評価が低下したかどうかも問いません。(刑法230条)

口コミサイトやSNSの投稿内容が真実であるかどうかにかかわらず、会社の評価を低下させるのに足りる事実であれば、名誉棄損に問える可能性があります。

侮辱罪

事実を適示しなくても、公然と個人や法人を蔑視するような価値判断を表示することに対して、刑法上の責任を追及します。(刑法231条)

例えば、「あの会社の商品は粗悪品だ」といったようなレッテルを張りつける様な投稿を行っている場合は、侮辱罪に問える可能性があります。

信用毀損罪

偽の情報を流して個人や法人の信用を低下させる状態を生じさせた場合に成立する犯罪です。名誉棄損と異なり、公然性は必要ないため、不特定多数が閲覧できるネット上への投稿だけでなく、ごく限られたコミュニティにおける投稿や噂話でも成立します。(刑法233条)

業務妨害罪

業務妨害罪には、偽計業務妨害罪(刑法233条)と威力業務妨害罪(刑法234条)があります。

偽の情報を流して個人や法人の業務を妨げた場合は、偽計業務妨害罪。理不尽なクレームや脅迫行為であれば、威力業務妨害罪に当たります。

風評被害の警察への対応依頼

風評被害の原因となる情報を発信している人に対して、上記で紹介した刑法上の罪に問える可能性がある場合は、被害届を出したり、刑事告訴を行うことも考えられます。

被害届

被害届は、警察に提出します。警察が被害届を受理して刑事事件に問えると判断した場合は、捜査を開始します。逆に言うと、事実関係が分からなかったり、証拠が不十分だったりすると、被害届を受理してくれない場合があります。
しかし、現に被害が生じているのであれば、例え一回で被害届を受理されなかったとしても、時点時点で分かっている情報を提示しながら、進捗の都度警察に相談し、指示や助言に沿って対応しましょう。被害の深刻さなどによっては、相手が分かった時点で警告してくれる場合もありますし、被害届を受理した時点で既に相談記録があるので、速やかな対応に繋がります。

刑事告訴

刑事告訴は、捜査機関に対し犯罪事実を申告するだけでなく、加害者の処罰を求める意思表示を含むものです。捜査機関は告訴状を受け取ったときは、検察へ書類を送付したり、起訴するかどうかの結論を被害者に知らせる義務があります。

刑事告発

刑事告訴と混同されがちですが、刑事告訴は被害者自身が行うものであるのに対して、刑事告発は、第三者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求めるものです。

被害者以外の人が行う点が違うだけで、そのほかの点では刑事告訴と同じです。

民事での対応

風評被害を受けたために、警察に被害届を出したり、刑事告訴することは、風評被害への第一の対応として有効です。また、被害届や刑事告訴をした際は、その旨をWEBサイトなどで公表することで、風評被害に対する牽制効果も期待できます。

しかし、警察に被害届を出しても捜査を開始するかどうかは分からない上に、捜査される場合でも数か月単位で時間がかかることも珍しくありません。くわえて、加害者が悔い改め、謝罪したり発言を撤回するとは限りません。おまけに、加害者に刑事責任は問えるにしても、風評被害により企業が被った損害を回復できるわけでは無い点も深刻です。

そこで、被害が深刻な場合は、刑事責任の追及とは別になるべく早い段階で民事上の対応を検討すべきです。加害者が特定できていればすぐに対応可能ですが、特定できていない場合でも、ネット上の書き込みの場合なら裁判所への開示請求で個人特定できる場合もあります。

民事上の対応としては、以下のようなアプローチが考えられます。

  1. 弁護士からの警告
  2. 民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求(任意交渉)
  3. 民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求(訴訟)

なお、警察の捜査が数か月単位で時間がかかると伝えましたが、訴訟の場合も、決着がつくまでに半年くらいはかかる上、損害賠償額として認められる額も直接損害だけなので被害に比べ低額な場合が多いため、初手としてあまりお勧めはできません。
被害回復のために書き込みの削除や謝罪文の掲載を求めるのであれば、上記1、2、3の優先順位の通り、弁護士からの警告をしたうえで、相手の出方に応じて任意交渉か訴訟を検討すると良いでしょう。

広報による風評被害への予防的対応

風評被害はいったん発生すると、企業に多大な損害を及ぼすことがあるので、風評被害の発生を予防することが非常に大切です。風評被害を予防するためには、社内での取り組みとステークホルダーとの関係維持、モニタリング体制の整備などを行います。

風評被害予防のための社内での取り組み

社内での取り組みとしては、以下のような活動が挙げられます。

  • 従業員教育の徹底
  • ソーシャルメディアポリシーの策定

風評被害や炎上と言うと、SNSへの不適切な投稿を思い浮かべる方が多いと思いますが、必ずしもそれに限ったことではありません。店舗での接客、コールセンターでの対応、社用車での配送、飲食店での会話、その他様々な場面において従業員の対応に起因して悪評を生む可能性はあります。そして、そういった悪評を放置してしまうと、背びれ尾ひれがついて拡散し風評被害となることもあります。
このような事態を防ぐためには、SNSに限らず、顧客対応や業務上知り得たこと全般に対し継続的に従業員教育を徹底して行くことが大切です。

また、SNSへの投稿、取引先との会話、報道機関からの接触時の対応、業務外での言動など、あらゆる発信の指針となるポリシーをあらかじめ作成しておき、そのポリシーに則って発信を行うようにすることで、風評被害の原因となるような発信を予防することができます。

風評被害予防のためのステークホルダーとの関係維持

風評被害の原因は、ステークホルダーが自社に対して何らかの不満を抱いたことがきっかけで生じることもあります。このような事態を防ぐためには、日ごろからステークホルダーとの関係を維持し、不満を解消することで、火種を一つ一つつぶすことが大切です。

また、取引先の発信によって、風評被害が生じることを予防するためには、取引先との契約時に、信用棄損や風評被害の原因となるような発信を行った場合は、民事上の損害賠償義務を負う旨を明記しておくことも有効です。

風評被害予防のためのモニタリング体制の整備

現在の風評被害は、ネット上での発信がきっかけで生じることが多いため、社内からの発信はもちろん、社外からの口コミやレビューの投稿、そのほか、会社に関係するサイトでの発信内容などを継続的に監視できる体制を整えることも大切です。

社内から風評被害の原因となりそうな発信がなされた場合は、直ちに訂正や削除をしたうえで、会社としての正式な対応を表明します。また、社外から不正確な発信がなされた場合も、直ちにWEBサイトなどで正しい情報の発信ができるようにし、悪質性が強い場合や繰り返し書かれる場合には、上記の通り弁護士からの警告や損害賠償請求など民事的対応も検討しましょう。

上記のように早期に対応することが、風評被害を最小限に抑えることに繋がります。

風評被害に遭った場合の対応手順

風評被害は、気を付けていてもリスクをゼロにすることは難しいものです。そこで、風評被害の原因となる投稿や発信がなされた場合にどう対処すべきか、あらかじめ、ガイドラインなどを策定しておくことが大切です。

ここでは、企業として何をすべきかまとめておきますので、参考にしてください。

事実関係の確認

風評被害の内容を早期に把握することが大切です。風評被害の原因となる投稿や発信が誰によってなされたのか。どのような内容なのかを確認します。
そして、その内容が事実無根なのか、会社にも落ち度があるのかを冷静に判断します。

風評被害は、何もないところから発生することはまれで、どこかで風評被害の元になる事件や事象が生じていることがほとんどなので、その事件や事象を辿ります。

会社としての正式な声明の発表

風評被害の内容に対する会社としての正式な声明を発表します。
風評被害の内容を説明し、背景となる事実関係を調査・確認したことや、その事実についての会社の正式な立場を表明します。

事実無根であれば、デマや根拠のない噂に過ぎないことを明言し、その説明を裏付ける証拠や事実を公表します。具体的な証拠を出すことが、ステークホルダーを納得させるために大切です。
一方、会社に何らかの落ち度がある場合は、なぜそのような落ち度が生じたのか説明したうえで、再発防止策を発表します。

ネット上の投稿や発信の削除を依頼

風評被害の元となる投稿や発信がネット上に残ったままでは、風評被害は収まりませんし、拡大し続ける危険もあります。

そこでこれらの投稿や発信を早期に削除することが重要です。

社外からの投稿や発信の場合、投稿者や発信者に削除を求めることになります。掲示板やブログの場合は、運営者に対して削除を求める対応も可能です。
ただ、投稿者や発信者に直接削除を求める場合は、削除を求めたことが逆手に取られて「圧力がかかった」といった投稿や発信をされてしまい、さらなる波紋を引き起こしてしまうこともあります。
そのような事態を防ぐためには、必ず、会社としての正式な声明の発表を行った後で、広報から直接ではなく弁護士などの専門家を通じて削除を求めることも検討すべきです。

また、そもそも削除されるまでに長時間を要する場合もあります。そのため、削除を求めた場合は、公式声明と一緒に削除依頼をした事実を、公式サイト上に公開するのも有効です。

投稿者や発信者が不明の場合

ネットでの発信や投稿は匿名で行われることも多いため、投稿者や発信者が分からないこともあります。
このような場合は、サイト管理者やプロバイダに対して、発信者情報開示請求という裁判手続を行うことにより、氏名・住所等を特定できることもあります。

発信者情報開示請求は、会社自身が行うこともできますが、その後の損害賠償請求なども考慮すると、弁護士に依頼すべきです。

投稿者や発信者への損害賠償請求

会社に損害が生じている場合は、風評被害の元となる投稿や発信を行った人に対して、損害賠償請求を求めます。投稿者や発信者が従業員の場合は、懲戒処分を行ったうえで、別途、損害賠償請求を求めることになります。

もっとも、被った損害のすべてを、個人である投稿者や発信者に対して請求することは現実的ではありません。
どの程度の額ならば、請求できるのかは、弁護士などの専門家に相談してください。

もちろん、対応が甘いとさらなる風評被害を生じさせかねません。毅然とした態度で挑み、デマやフェイクニュースは許さない姿勢を示すことは、今後の風評被害への大きな抑止力になります。

日頃から、風評被害に遭ったときに応援してくれるステークホルダーを作る

風評被害を受けている状況についてあえて、ステークホルダーに知らせることで、反響を呼び起こし、ステークホルダーに応援して貰う形で風評被害からの回復を図ることも戦略の一つです。
新型コロナウィルス感染症拡大時に株式会社コロナが取った広報活動は、大いに参考にすべき事例です。

ただし、こういったピンチのときに応援してくれるステークホルダーは、その時になって急に現れる訳ではありません。『広報』が『Public Relation=組織とその存在を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント』と訳されるように、日頃から従業員、その家族、株主、お客様、お取引先さまなどとの関係を良好にするように心がけ、自社のポリシーや取組みを知ってもらうように心がけることが重要です。
例えば、ステークホルダーへの配慮を踏まえた経営理念や行動指針を定めることもその一環です。理念や指針、沿革、事業内容、従業員教育、社会貢献などの取組をまとめた、パンフレットを広報主導で毎年更新し、ステークホルダーに配布することも有効です。また、負担にならない範囲でボランティアなどの地域貢献活動に参加することも効果的です。

重要なのは、風評被害を予防するための教育や規則などの整備と並行して、自社に対しポジティブな理解を広げるためのチャネルを負担にならない範囲で複数用意しておくことです。
風評被害が拡散しやすい一方、被害者への同情や応援の輪も広がりやすいことを忘れずに、ポジティブに行動することで、被害の回復を図りましょう。

まとめ

企業が風評被害に遭ってしまうと、その損害を回復することは容易ではありません。
加害者を特定できたとしても、加害者が個人であれば、被った損害の全額の損害賠償請求を求めることは現実的ではありません。

やはり、風評被害は予防による対応が最も大切です。
従業員教育の徹底し、ネット上の情報、従業員からの声、取引先からの情報、その他内外からの情報をしっかりモニタリングし、早期に対応できるように準備をしておくことです。
ネット上の情報を人が監視し続けることは、現実的ではないため、ソーシャルリスニングツールなどの有用なツールの活用も検討すべきです。

風評被害への対応は、迅速さが重要であり、迅速に対応するためには平時からの準備が不可欠です。そして、平時からの準備は企業活動やステークホルダーとの関係を良化してくれます。
自社の事業環境にどのようなリスクがあるか考え、準備を始めましょう。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。