【保存版】広報・PRとは 具体的な仕事の内容を解説します

広報PR

『広報・PR』とは何ですか?と質問すると、プレスリリースを送る、記者会見を行う、イベントの司会など、商品やサービスのアピールなど、様々な答えが返って来る幅広い言葉なので、初めて担当することになった広報PRパーソンにとっては具体的な仕事イメージが持ち難いかもしれません。

この『広報・PR』について、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)では、以下のように定義しています。

出典:公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(https://prsj.or.jp/aboutpr/


「双方向」なので、一方的な広告や値引き要求では「双方向」になりません。相手としっかりコミュニケーションを取り、互いのメリットを互いに満たすためにはどうしたら良いか、誠実に考えることが求められます。
また、「関係性の構築・維持のマネジメント」なので、短期的な広告と違い、成果が出るまでには長い時間がかかり、維持するためには相応のパワーがかかります。

このように時間もパワーも要するにも関わらず、近年、広報PRの重要性が増している背景には、情報のデジタル化と情報の量・チャネルの拡大があります
これにより、消費者の情報収集手段が多様化し、信頼性の高い情報源を求める傾向が強まり、広報PRの役割は一層重要となりました。企業は、計画的な広報活動を通じて自社の信頼性を高め、ポジティブなブランドイメージを構築することにより、競争激しい市場での存在感を強化し、長期的な成功を目指すことができます。情報の透明性と信頼性が重視される現代において、広報PRは企業活動の中核を担う重要な役割となっています。

本記事では、初めて広報PR部に配属された方、これから広報部門を立ち上げようとしている企業向けに、このように近年重要性を増している広報PRパーソンの仕事内容を説明します。

【保存版】広報・PRとは 具体的な仕事の内容を解説します

社内広報

当社では、これから広報を始めようという場合には、特に希望が無ければ、基本的には社内広報から始めることをお勧めしています。
理由は、どのような組織であっても、まずその組織の構成員・従業員が自社の情報に触れるからです。
特に中小やベンチャーの場合は、一人ひとりの従業員がユーザーやクライアントの抱く企業イメージに与える影響が大きく、最大のメディアでもあります。最大のメディアである従業員に自社の商品やサービスの良さを正しく理解してもらい、自社にポジティブな感情を持ってもらうこと無しに、ユーザーやクライアントに対してポジティブな感情を持ってもらうことは不可能であることに注意しましょう。

社内広報の主な目的

組織や会社の成長ステージによって他にも様々な目的が考えられますが、一般的に、社内広報の目的は、以下のようなものが考えられます。

  1. 経営の考え方や方針の社内浸透
  2. 社員どうしの相互理解と共感の促進
  3. 情報共有とコミュニケーションの活性化
  4. 企業文化や風土の醸成
  5. 外部環境、社会的評価、主要な出来事の共有

社内広報の主な取り組み

社内広報の具体的な取り組み・仕事としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 社内イントラネットの活用推進
  2. 社内報やニュースレターの発行
  3. 社内イベントの開催
  4. 表彰制度の開催
  5. 社員の声の収集

上記例の他にも、会社によって様々な活動をしていることがあります。また、取り組みとしては上記だけとなっていても、例えば社内報を作る過程で沿革をまとめたり各支店のメンバーや業務内容を整理したり、様々な仕事が派生することが一般的です。筆者の勤務時代には、企業理念の策定や、在宅と出社のハイブリッド勤務を見据えたコミュニケーションルールの作成、といったことも社内広報の一環として行っておりました。
今まで全社的に情報を集約する広報PR機能が無いまま、ある程度の業歴・業容を積み重ねて来た企業の場合、社内の情報量が多くて(あるいは飛散していて)簡潔にまとめきれず、どのようなメッセージを伝えたいのかぼやけてしまいそうになることもあります。そのような場合は、望ましい企業文化や風土を醸成するという観点から、自社の強みや在るべき姿に結び付いている要素を優先的に取り上げ、それ以外の要素の優先度は必要最小限に押さえると良いです。

社内広報は、コロナ禍以降で従来に増して重症な業務になって来ており、社員と社員、社員と組織の信頼関係構築や活性化に欠かせない活動です。それぞれの企業によって抱える課題やニーズが異なりますが、経営の意向をよく理解し、社員の声をしっかり聴きながら、社内のコミュニケーションのハブとなることを目指しましょう。

広報PRの戦略立案

広報PRの戦略立案は、大まかに以下のようなステップで行われます。

活動目的の明確化

経営理念、組織のミッション、中期経営計画などの方向性と照らし合わせて、広報PRとしての具体的な目的を確認します。一般的に、広報PRの成果は測定が困難だと言われています。例えば、広報PR活動とオーバーラップして売上が拡大したとしても、広報PR活動の成果なのか、営業の頑張りなのか、それとも商品そのものが良かったのか、といった他の要因を切り離して広報PR部門だけの成果を切り出すことは困難です。最初に明確に組織の活動目的や業務範囲を決めておかなければ、やる事が不明確になり、社外への情報発信に関する雑務全てを押し付けられた挙句、結局何を達成したのか分からなくなりかねません。
そのため、初期段階では細かなKPIにこだわらず、経営理念、組織のミッション、中期経営計画など、組織としての根幹となるような価値観に基づいた活動目的を定めて、経営も含めて合意形成しておくことが、広報PRの成果創出には欠かせません。

ターゲットの分析

市場の分析によりターゲット層を絞り込みます。これには、デモグラフィック(年齢、性別、収入など)、ジオグラフィック(住所、商圏、移動ルートなど)、サイコグラフィック(価値観、ライフスタイル、興味関心、購入動機など)などの分析があります。絞り込んだターゲット層が、具体的に、どこにどのくらいいるのか、普段どういった情報メディアにアクセスしているのか、といったことについての調査も必用です。来店歴や購入歴などの情報があれば、そういった情報を元に分析することができますし、従業員からのヒアリングで顧客像に肉付けするのも有効です。
店舗、WEBサイト、SNSなどで直接アプローチするのであれば、ターゲットにインタビューをしたりすることで、行動パターンや購買動機がより具体的に知れて、広報PRの打ち手に繋がり易くなります。
このようにしてターゲットの分析・絞り込みをしたら、具体的なペルソナを作成することで、ターゲットに合わせた効果的なメッセージが作成しやすくなります。

また、プレスリリースをはじめとしたメディアリレーションの強化が目的の場合には、ターゲットだけでなく、後述のようなメディアリサーチを行い、メディア自体を分析することも重要です。

コア・メッセージの開発

ターゲットに対して、あるいはターゲットメディアに対して、広報PR活動で伝えるコア・メッセージを決めて行きます。活動目的や年度方針などによって様々なメッセージが考えられますが、できれば、長短3種類くらいのコア・メッセージを用意しておくと良いでしょう。

ポイントは、1つのメッセージに対しては1つの意味だけに絞り、それを一貫して使い続けることです。

広報PR活動をして行く中で、やってみたらこっちの方が反応良いな、といった理由によって、微調整することはあると思います。しかし、それは飽くまでも微調整であり、コアとなるメッセージ自体を変えることはあまりお勧めしません。メッセージがターゲットやメディアに浸透するには、長い時間がかかります。にも拘わらず、それをコロコロ変えていては、更に長い時間がかかることになりかねません。
また、メッセージに対する意味の絞り込みが弱いと、例えば年間を通じて「顧客満足」をテーマにして来たのに、受け手によって「新規契約数」「継続年数」「客単価」など意味がバラバラになってしまった挙句、どれも中途半端な成果になりかねません。

年間計画の作成

会社としての年間スケジュール(新商品のリリース、新店舗のオープン、セールやキャンペーン、周年イベントなど)、社会的なイベント(お花見、卒業、入学/入社、夏休み、紅葉、クリスマス、お正月など)、予算や対応人数などを踏まえて、年間の大まかな活動計画を作成します。

ポイントは、以下の2点です。

社会的なイベントについては、地域性を踏まえて考えること

例えば、春夏冬の長休みの期間やお盆休みは、地域によって数日のズレがあります。自社の商圏が地元だけならあまり気にする必要はありませんが、全国対応をしているなら、そういった数日のズレを把握して対応することは不可欠です。
また、見落としやすいこととしては、甲子園の地方大会や地元の大きなお祭りやイベントなどもあります。特に後者は、自社の商品やサービスがそのイベントと関連が深ければ、工夫次第で集客の増加やメディア掲載の可能性もありますが、そうでなければ、勝負時は避けた方が無難です。

自社の商品やサービスに合った穴場の記念日が無いか探してみること

会社の年間スケジュールや社会的なイベントは、黙っていても日程が決まっているので探す必要はありませんが、前者は数が少ないですし、後者は競合と重なってしまいやすいという欠点もあります。そのため、もっと主体的に自社の情報を発信するための穴場日がないか、探してみると良いです。
例えば、当社は埼玉県の志木市にあり、この志木市のキャラクターは河童のカパル君です。この河童に関連するイベントやお祭りを調べてみると、以下のようなイベントがあることが分かりました。

5/5(日)こどもの日
河童を含む伝説上の生物の話が子供たちに語られることがある。
7/27(土)平塚七夕祭り
河童に関連する地域の伝説や話も紹介されることがある。
8/6(火)仙台七夕祭り
東北地方で行われる七夕祭りで、河童の話や伝説が地域の文化として紹介されることがある。

これを踏まえて、こどもの日に河童をテーマにしたフォトコンテストを開催したり、平塚七夕祭りや仙台七夕まつりにカパル君の出張参加を提案することで、クリスマスやお正月のように競合しない穴場の記念日を見付けることができます。また、メディアの地域面が取り上げてくれる可能性や、河童=志木市という認知が広がる可能性もあります。

行動計画の作成

年間計画に基づいて、それぞれの日に具体的に何をするかを決め、そのための準備としてバックデートしながら必要なこと、日数、工数などを割り当てて行きます。この時の注意点は、プレスリリースやSNSでの情報発信だけにならないように、ターゲットにリーチする実際のイベントなどを通じて、ある社会的価値を伝えることです。

例えば、単にその地方に新しい店舗や工場を建てるというだけでは、その他多くのセールスレターと同じであり、誰も目に停めてくれません。重要なのは、ターゲットにとって、その生活にとって、社会にとってどのような価値や影響があるのかを明確にすることです。
一見して目新しい要素が無いようでも、しっかりとリサーチをすれば、「町内で初めての24時間営業で生活者を応援する」「奨学金制度により若者を応援する」など、ニュースバリューとなる可能性はあります。それを明示し、実際に見たり触れたりできるリアルなイベントも開催しながら(上記の例なら内覧会や説明会など)、それについてターゲット顧客層やメディアに伝えて行くことをお勧めします。

メディアリレーション

メディアリレーションについては、大きく以下の3ステップがあります。

メディアリサーチの実施

自社のターゲット層が触れるメディアを分析し、具体的な購買層、発行部数、評判、過去の記事、関連情報の掲載歴、自社の掲載を狙うならどのような内容が考えられるか、といったことを、メディア一つ一つについて確認し、優先順位をつけて行きます。

メディアへのアプローチ

プレスリリース、イベント招待、記者会見など、具体的なアプローチ方法を検討します。規模や内容にもよりますが、最初は、プレスリリースを出してもなかなか取材には結びつきません。しかし、そのような場合でもアプローチを継続することは重要です。
何度プレスリリースを打っても取材に結び付かない時は、プレスリリース文面の見直しも重要ですが、イベントに多くの来場者が訪れている写真や、専門家が登壇している写真、などを添付して情報量を増やし、地域の関心度の高さをアピールするのも一つの手段です。

アフターフォロー

メディアに掲載されたら、簡潔で良いので即お礼の連絡をし、今後も同件で取材源が必要な場合はいつでも協力すると伝えましょう。また、取材はされていたけれど、残念ながら掲載には結びつかなかった、という場合もあります。そういった場合にもそのまま放置せず、お礼の連絡をしたうえで、掲載が見送られた理由を確認しましょう。もっと大きなニュースが入ったなら止む無しですが、場合によっては「もう少しこういった情報があれば」などフィードバックを貰える場合があります。そういった場合は、次回からは必ず反映させられるように、ストックしておきましょう。

なお、メディアリレーションについては、以下の記事で詳述していますので、詳しく知りたい方はご参照ください。

メディアリレーションのやり方 3ステップで解説

デジタルPR

デジタルPRは、近年大きく拡大して来たチャネルであり、コンテンツマーケティング、SNSの活用、ウェビナーやライブ配信といったオンラインイベントなどがあります。

コンテンツマーケティングとは、従来の広告とは異なり、一方的に商品を売りつけるのではなく、ブログ記事や動画などにより顧客の課題解決に役立つ有益な情報を提供することで、ファンと信頼関係を築いていくマーケティング手法です。自社の専門性を知ってもらうと共に、ファンのニーズ充足や困りごとの解決にも繋がることで満足度も高いため、近年大きく注目されています。例えば、本ブログのような情報発信もその一つです。

注意点として、基本的にはターゲット顧客への直接リーチを目的としたものなので、顧客との接点が店舗のみの場合には、コンテンツマーケティングの必要性は低くなります。ただし、現時点での顧客動線上にWEBはなくても潜在的なニーズとしてはあるかもしれませんし、集客ツールとしては使っていなくても、プレスリリースを打った場合はメディアも事前に目を通す可能性が高いです。なので、自社の現在の顧客動線と将来の在るべき姿の両方を踏まえて、何をするかを決めましょう。
場合によっては、デジタルPRのチャネルとしてわざわざWEBサイトを立ち上げなくても、SNSアカウントだけで十分という場合もありえます。

なお、SNSの活用とオンラインイベントについては、それぞれ大きく専門的なテーマなので、詳細はそれぞれ以下のページで説明します。

【SNSマーケティング】SNSの選び方と始め方を具体的に解説します。

【PRイベント】ファンを作るポイントは? 事例を交えて、企画、集客、運営を解説

イベントの企画・運営

広報PRにおけるイベントは、メディア、取引先、エンドユーザー、地域社会など、様々な関係者に向けた活動であり、その目的や内容も多岐にわたります。

また、ターゲット、目的、内容といったことが決まっても、集客を告知する前に、オンラインでやるのかリアルでやるのか、ゲストはどうするのか、といった点を詰める必要があります。規模の大小様々であり、全体を通じて非常に多様性がある、その企業その企業の個性が現れやすい活動だと思います。

主なイベントの種類としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 発表会・展示会
  2. 社内見学
  3. 講演会・セミナー
  4. カンファレンス
  5. 周年記念イベント・セレモニー
  6. 授賞式
  7. ユーザー交流会
  8. コンテスト・ワークショップ
  9. 記者会見・プレス向けイベント
  10. 定例会

これらは一見、全く違う取り組みのように見えますが、イベントを実施するまでの流れはある程度共通しており、大きくは下記の流れになります。

企画の立案

必ず、経営課題や部門方針など、大所高所を踏まえて企画を検討しましょう。

会場の選定

予算、参加人数、アクセス、雰囲気などを考慮して会場を決めます。見落としやすい点としては、同業他社のイベントと重なってしまうことです。その会場だけでなく、同じ日時に周辺会場で行われるイベントについても、できるだけリサーチしましょう。

集客の実施

SNS、告知サイト、ハウスリストへのメルマガ、プレスリリースなど、様々な手段を使って集客を行います。なお、SNSに関しては、イベントが決まってから急にアカウントを作っても、そう簡単にインプレッションは伸びないことに注意が必要です。また、B to Bの会社の場合、筆者の経験上最も有効だったのは、アナログですが営業を通じた個別の紹介と参加依頼でした。特にB to Bは、権限の無い人が興味本位で大人数参加するより、人数は少なくても決裁権者が真剣に参加してくれることが重要です。そのため、顧客を最も理解している営業がしっかり説明することが、最も有効でした。

イベントの開催

最も重要なことは、イベント本番ではなくその準備です。音声、ライト、接続、資料の切り替えなどのテクニカル部分を確認するテクニカルランスルーと、資料の読み合わせや司会進行方針、所要時間を確認するリハーサルに別けて、遅くても前日までに終えるようにしておきましょう。

実施後のフォロー

PRイベントでは簡単で良いので参加者にアンケートを取り、反省点の振り返りや費用対効果の分析を行うことで、次のイベントに活かしましょう。営業目的であれば、アンケートに相談希望の有無を設けます。また、自社サイトやSNS上で当日の写真を掲載し、どれだけ話題になったのか伝えるのも良いでしょう。

イベントについては下記記事で詳述していますので、ご参照ください。

【PRイベント】ファンを作るポイントは? 事例を交えて、企画、集客、運営を解説

広報PRの成果測定

前述の通り、広報PRは、売上や採用といった最終結果での評価に向かないため、活動実態を踏まえた工夫が必要です。具体的には、定量的なデータと定性的なフィードバックの対象項目を区別し、それぞれに応じた評価を行って行きます。

定量的な評価

以下のような数値を計測することで、広報PRの成果を評価します。

  1. メディア掲載数
    プレスリリースや記事が掲載された回数
  2. インプレッション数
    広報活動がどれだけの人に見られたか
  3. SNSのエンゲージメント率
    いいね、シェア、コメントの数
  4. PRイベントの参加者数
    イベントに参加した人数や参加率

定性的な評価

以下のようなフィードバックや感想を収集し、広報PRの成果を評価します。

  1. メディアの論調・トーン
    掲載された記事や報道の内容がポジティブかネガティブか
  2. ユーザーのブランド認知度
    調査を通じてブランド認知度の向上を測定
  3. ステークホルダーのフィードバック
    顧客やパートナーからの直接の意見や感想
  4. SNSのコメント分析
    ソーシャルメディア上でのユーザーの反応や感想の分析

いずれも、しっかりとした情報を集めようと思えばそれなりに手間暇がかかりますが、定性評価については一定の専門性が必要なため、専門の調査会社などに依頼するのが一般的です。

なお、まだ広報PR業務を始めたばかりで、予算化もしていないので、上記のような調査の外注は難しいという場合でも、分かる範囲で良いので必ず自社で確認はしましょう。
例えばメディアの論調やトーンは、全メディアを網羅するのは難しくても、見付けたメディアの記事を確認し、論調を評価することは、調査会社ではなくてもできます。例えば、そういった評価の中で、自社が目指していたキーワードや論調と真逆の扱われ方をしていたのであれば、どうしてそうなったのかを客観的な視点で考えてみることで、PDCAを回して行けば、必ず広報PR活動の質は上がって行きます。

クライシスコミュニケーション

企業にとって、危機的状況はいつ発生するかわかりません。不祥事、事故、自然災害など、様々な要因によって企業の存続を脅かす事態が起こりえます。このような状況において、企業が迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。

クライシスコミュニケーションとは、企業が危機的状況に直面した際に、被害を最小限に抑え、企業の信頼回復を目指すための広報PR活動です。具体的には、以下のような目的を達成するために、様々な取り組みが行われます。

1. 被害の拡大防止

迅速かつ正確な情報公開を行うことで、憶測や風評被害の拡大を防ぎます。また、場合によっては即時の利用停止を周知することで、消費者の被害を最小限に抑えます。

2. 企業イメージの保護

誠実で迅速な対応を行うことで、企業の信頼回復とイメージの保護を目指します。
事実に基づいて真摯に謝罪し、再発防止策の提示などを通じて、企業としての責任を果たします。
企業の理論や責任回避と取られないように、真摯に対応することが何よりも重要です。

3. 法的な責任への対応

法的なリスクを最小限に抑えるため、弁護士などの専門家の協力を仰ぎ、適切な対応を取ることは重要です。
しかし、法的な責任の軽減は、重要な事ではありますが、極論すると企業の論理であり、現に被害が生じている場合には、その救済や回復が優先されることは言うまでもありません。そのため、記者会見の席などで法的に問題が無いことを真正面から、例えそれが正しかったとしても「責任逃れ」と更なる糾弾を生みかねません。
同様に、内部検討の場で弁護士に参加してもらうことは良いですが、公の場でも発言してもらうべきか否かについては、内外の情報を俯瞰して慎重に判断すべきです。

広報PRは常に、企業の理論では無く社会の目としてどうなのかという視点で、どのような情報をどのように発信するするかを検討しましょう。

4. 関係者との信頼関係の構築

組織や会社の方針で伝えらなかったとしても、「隠している」「責任逃れしようとしている」と報道されてしまったら、取り返しのつかない悪印象です。そうならないように、関係者とのオープンなコミュニケーションを通じて信頼関係を構築・維持しましょう。

特に、事態の把握に時間がかかったり、刻一刻と変わって行くような場合には、以下のような点に注意して対応しましょう。

  1. 当面の間は定例の記者会見を検討する(分からないことも「分かり次第公表する」と言える)
  2. 毎回の発表内容をWEBサイトに公開する(過去のことも含めて情報公開する)
  3. 窓口を広報担当に一本化する(当面、専用の電話番号を公開しても良い)
  4. 社内にも方針を周知し、情報公開を図る(言行不一致と取られると社内からリークが出かねない)
  5. 特定の報道機関の『特ダネ』にならないように、一社だけに伝えることはせず、毎回同じ情報を記者会見で伝える(個別問合せにも「記者会見でお答えします」と回答する)

5. 再発防止

危機発生の原因を分析し、再発防止策を策定・実行します。
場合によっては、自社サイトへの掲示や記者会見での発表などで広く社会に向けて発信することも検討します。 なお、クライシスコミュニケーションは、危機発生後の対応だけでなく、危機発生前の予防策も重要です。リスクを事前に洗い出し、対策を講じておくことで、危機発生を未然に防ぐことができます。
リスクの内容やレベルに応じて、各部署がどのような対応を取るかを決める中で、広報PRの役割や対応基準も明確に定めることが、「有事の際の羅針盤」となります。

法的・倫理的な面の考慮

広報PR活動において、法的および倫理的な考慮は非常に重要です。
法令違反や倫理的な問題を避け、企業の信頼性を守るためには、以下の点に注意する必要があります。

  1. 一般的な法令などを遵守していること
    各国や地域の各種法令、業界慣行、信義則などを理解し、遵守しているかを確認しましょう。特に、医療や金融など
  2. 専門的な法令、業界規制、契約などを遵守していること
    医療や金融などで定められた法令だけでなく、業界規制なども確認しましょう。
  3. 個人情報保護法やプライバシー権を守っていること
    個人情報の取り扱いに関する法規制を遵守し、消費者のプライバシーを守れているかを確認しましょう。
  4. 他社の知的財産権や著作権を侵害していないこと
    著作権、商標権、特許権などの知的財産権を理解し、適切に対応していることを確認しましょう。
  5. 倫理的に正しいこと
    法令や契約に定められていなくても、倫理的に正しいこと、逆の立場だったとしてもネガティブには捉えない行為であることを確認しましょう。

上記に加え、例えば広報PR部門がIR業務まで行うのであれば、会計に対する知識や、会社法、金融商品取引法など、広範な知識が必要であり、広報PR担当者単独での対応はほとんど不可能です。社内の関係各部署と連携するだけでなく、必要に応じて社外の弁護士や弁理士、コンサルタントからの協力も得ながら、法的・倫理的な側面から広報PR活動に瑕疵が生じないように確認して行きましょう。

【事例紹介】戦略PRが民法改正をブレイクスルーさせた?

現代の広報PRの重要な役割の一つとして、「基準となる価値観を変える」というものがあります。
これについて、具体的な事例を交えて説明いたします。

民法改正の背景

2024年5月、1947年の法改正以来実に77年ぶりの家族法の改正が、与野党の賛成多数で可決・成立し、2026年までに共同親権を導入することが決まりました。この法改正について、筆者はある当事者団体の広報PR・ロビイングのチームリーダーとして、プレスリリース、記者会見、各種イベント、報道対応、大臣を含む50人以上の議員へのロビイングなどを行い、微力ながら法改正に貢献したと自負しております。実際、大手5紙を含む様々なメディアにも取り上げられましたし、筆者自身の事例も、公共放送、大手紙、ブロック紙などで報じてもらいました。

これについては、一部でDV懸念を理由に「拙速だ」と批判する声がありました。しかし、日本が1994年に子どもの権利条約を批准して以来、夫婦の別れが親子の別れになる日本の離婚後単独親権制度は累次にわたる国際的非難を受けており、近年でも2019年には国連子どもの権利委員会が日本に共同親権立法勧告を行い、2020年にはEUが賛成686票・反対1票・棄権8票の圧倒的多数で「日本の子の連れ去り問題」の非難決議を可決した他、米、仏、豪、西、台など様々な国からネガティブなメッセージを受けています。法務省が2020年に先進24か国を対象に行った調査でも、まだ離婚後に単独親権制のみなのは印と土だけであり、多くの先進国では既に共同親権になっていることが分かっており、責任ある国際社会の一員として当然行うべき議論であり、子どものために当然行われる法改正でした。

今回の法改正は、このように累次にわたる非難を背景に、2021年に法務大臣が法制審議会に諮問をし、以来3年以上・30回以上の議論を重ねてきたものです。そのため筆者は、「拙速」という言葉は全く当てはまらないと考えています。

しかし、筆者がこの活動を始めた2020年当時は、全く違う状況でした。

作られた空気による作られた常識

当時は、報道の絶対量が少ないということもありましたが、それ以上に、単に“子どもに会えない”と言うだけで、「どうせDV親父だろう」「どうせ養育費を払わない無責任親父だろう」と非難の目で見られたり、「DV」「モラ」と言えば事実確認や反対当事者からの弁明機会が無くても、被害者を全面的に保護しなければいけないような(加害者には一切の反論が許されないような)空気がありました。実際、筆者が支援した多くの当事者が自治体に相談した際に上記の様な対応で、ほとんど追い払われるような扱いを受けておりましたし、せっかく記事を書いてくれたジャーナリストやライターさんに対しても、クレームを入れられたメディアがあっさり(に見えた)記事を取り下げてしまった、といったこともありました。

また、SNSやメディアで共同親権への反対意見を発信する人の中には、「平成24の民法766条改正後、家庭裁判所は原則面会交流に舵を切ったので、家裁に調停を申立すれば会える」「会えないのは一部の問題親だけだ」といった主張をする人がいました。これについては、厚生労働省から子ども家庭庁に引き継がれた『全国ひとり親世帯等調査』で、全てのひとり親家庭の子(「ひとり親」という言葉も酷い差別用語だと思いますが)の約7割が別居親と生き別れになっていることが明らかにされており、ファクトベースでは全く見当違いであることは疑念の余地がありません。しかし、一般の視聴者がいちいち政府統計など見ませんし、補助金や寄付金を求める一部の心無いNPOや商魂たくましい一部の弁護士が最もな顔をして喧伝し、レッテル貼りをしていたことで、愛する子どもに子どもに会えずに苦しむ親は、まるで、いくら叩いても良い社会悪のように扱われる空気が作られ、そんなことよりも、養育費の不払問題を解決する方が社会正義に適っているといった常識が作られていました。
そしてその結果、議員さんに話してもなかなか相手にしてもらうことはできませんでした。

先入観を突き破るインパクトのある絵を見せる

そこで、筆者はある記者さんからヒントをもらいながら、女性当事者を前面に打ち出した広報PR活動を展開することにしました。
2020年~2024年現在まで、日本は離婚後単独親権制度なので、親子関係に問題が無かったとしても親権者が拒絶したら子どもに会うことができなくなります。そのために国際的な非難を集めていたことは上記の通りです。しかし、これは根本的には法律制度の問題なので、母親であっても、親権を得ることができなければ自らが産んだ子どもと生き別れになり、苦しんでいる例は沢山ありました。むしろ、単に親権を取れなかったというだけなのに、「母親なのに子どもに会えないなんて、よほど問題があったのだろう、、、」といった先入観で見られる分、父親より過酷な状況だったのかもしれません。

そのため、そういった女性当事者に前面に立ってもらうことは、「どうせDV親父だろう」「どうせ養育費を払わない無責任親父だろう」といった偏見と先入観を突き破るためには、不可欠なことでした。

常識を引っくり返すファクトを提示する

女性当事者に前面に立ってもらうことは不可欠なことでしたが、それだけでは単に「中にはそういった事例もあるんだね」「でもその人は、裁判所が正しく判断した結果で親権を得られなかったのだから、親として問題があったんだよね」と言われてしまう可能性があります。そこでもう一つ重要なのが、常識となっている価値観を変えることであり、筆者らが考えたのは、家庭裁判所の判断について詳細かつ具体的なアンケートを取り、その結果を公表することでした。

日本では裁判所信仰のような空気があり、「裁判所は法と正義に基づいて正しく判断している」という価値観が常識になっています。そしてそういった常識が、「裁判所が正しく判断した結果で親権を得られなかったのであり、原則面会交流の制度下で会えないのは問題のある親だけだ」といった声が正当であるかのような空気にも繋がっています。これを真っ向から引っくり返すことができれば、極めて大きなニュースバリューとなる可能性があると考えました。

しかし、筆者はそれまで何十人もの相談に乗って来ており、そのほぼ全てで、家庭裁判所は親子関係に対し極めて冷淡であり、問題の無い親子に対する判断としては理不尽なものばかりでした。そのため、裁判所の対応が世間で思われているような「個々の事案に基づいた適切な判断」などではなく、低きに流れる機械的な処理であると確信していました。そして、その冷淡かつ機械的な処理を、一般的には離婚後に親権を取ると思われている母親の口から伝えれば、世の中の空気に一石を投じることになるという勝算がありました。

20以上のメディアによる報道の実現

アンケートでは子どもと離れて暮らす母親当事者50名近くに協力してもらいましたが、案の定、そのそのほとんど全てで、裁判所は、先に子どもを連れて出て行った側(この場合は父親)に親権を認めるという、いわゆる『継続性の原則』が確認されました。また、子どもを連れ去られた側の母親が「子どもに会いたい」と調停を申し立てても、同居親(子の場合は父親)が首肯しない限りは認めないという、極めて冷淡な判断を、まさに判で押したように続けていることが判明しました。

このような経緯を踏まえて記者会見を行い、集まった記者にアンケートレポートを配布し、理不尽な司法により自らが産んだ子どもと生き別れを強いられている母親当事者20名以上がその苦しみを切実に訴えた結果、従来の「どうせDV親父だろう」「どうせ養育費を払わない無責任親父だろう」「でもその人は、裁判所が正しく判断した結果で親権を得られなかったのだから、親として問題があったんだよね」といった価値観を根底から引っくり返すこととなり、大手新聞を含めて、全国の様々なメディアに掲載されました。

報道が実現した理由

その後、多くのメディアで法律の不備が認識され、女性当事者の存在、連れ去り問題海外諸国からの非難、その他の親子断絶に関わる様々な話題が報じられるようになりました。読者の中にも、こういった報道を目にされた方は多いと思います。
そのように、必ずしも十分とは言えないまでも賛否両論が報道されるようになったことにより、筆者も、国務大臣や政務官、国政政党党首、その他50人以上の国会議員に会い、情報提供を行うことができ、法改正の議論を前進させることができたのは大きな成果であったと思います。もちろん、成果の全てが筆者らによるものではありませんが、その一端を担えたことは貴重な経験でした。

テクニック的に言えば、本件が報道の突端となった理由は、ファクトとエモーションの両立でインパクトを与えたことだったと思います。
しかし、真の意味での本件のブレイクスルーは、「男女の対立の問題」から「親子の絆の問題」、「DV親父や養育費を払わない無責任親父だけの問題」から「法律の不備により自らが産んだ子どもにさえ会えなくなる問題」、「裁判所は法と正義に基づいて適切に判断している筈」から「裁判所は今現在子どもと同居している親を判で押したように親権者と認めている」へと、基準を変えさせる情報を発信し、「子どもに会えない親(当時は主に父親)には問題がある」という価値観を変えさせたことで、報道する理由を新たに作ったことに尽きると思います。
実際、50人以上の国会議員に陳情や情報提供をする中でも、そういった報道が増える前と後では議員の対応が全く違い、アポもほとんど二つ返事で取れるようになりました。また、そういった価値観の転換があったからこそ、それまではDV懸念を訴える反対論者が絶対不可侵のように扱われていましたが、「愛する我が子を一方的に奪われ二目と会えない、これがDVで無いなら他の一体何がDVと言えるのでしょうか?」と明確に反論することができるようになり、同じ土俵で解決を訴えることができるようになりました。

広告で常識や価値観を変えることは困難だけど、広報PRならできる

本件は民法改正という非常に大きく、賛否様々な意見のあるテーマであり、いきなり議員に話しに言っても相手にしてもらえなかったので、まず先入観や常識を変えるようなインパクトのある広報PR活動を実施しました。これは、相手を議員から顧客に変えれば、一般の会社組織でも極めて有効な手法です。民法改正のような大きなテーマでなかったとしても、特定の業界や地域のメディアに対して適切に情報提供することで、顧客の価値観や判断基準を変え、自社の優先度を高めてからアプローチできれば、購入や契約に対する顧客の心理的なハードルが低くなることは容易に想像できると思います。

しかし、これがもしも商業広告だったら、「裁判所の判断を疑わせる」といったドラスティックな常識の転換ができたかとと問われれば、筆者は困難だったと考えます。人は、広告宣伝では、なかなか自らの常識や価値観を変えることはしません。中立的な報道だからこそ、自らが持っている常識や価値観を自然に変えるのだと思います。そういったことが確認できたという点においては、本件は戦略PRの効果を改めて確認できた重要な事例であったと思います。

まとめ

広報PRの仕事は多岐にわたり、メディアリストの作成から法的・倫理的な考慮まで、幅広い知識とスキルが求められます。ここに紹介したもの以外にも様々な業務がありますし、逆に、会社や組織によってやっていないことも沢山あります。

最初は慣れないことも多いと思いますし、何から始めれば良いか分からないこともあると思いますが、一歩一歩ステップを踏んで丁寧に対応していくことで、コツが分かり、自社にとって必要な広報PR活動が見えてくるようになります。なお、もし自社にノウハウが無い場合、これまでのコラムでも何度か伝えて来た通り、外部への丸投げは最悪ですが、自社での丸抱えは次悪です。ノウハウが無い状態で手探りでやろうとしても、ただでさえ成果に時間がかかる広報活動が更に長期化します。そのため、最初は外部研修を受けたり専門家のコンサルティングを受けながら進めて、社内にノウハウを蓄積して行くことをお勧めしています。
経営理念や部門方針などの重要なポイントを押さえて、効果的な広報活動を展開していきましょう。

著者のイメージ画像

花村広報戦略合同会社
花村 憲太郎(Kentaro Hanamura)

15以上の仕事を経験後、サービス業のカスタマーケア部門のマネージャーとして、従業員教育や顧客満足度の向上に関わる各種施策を担当。平行して、中小企業診断士としてスモール・ミドルへのコンサルティングを経験。その後、自社と社外の任意団体で広報を担当し、プレスリリース、記者会見、メディア対応などを実施。 社内外での広報PRと経営の支援を通じ、広報戦略と経営戦略との一体的な対応により、自社の魅力を継続的に社内外に伝えることが重要であるとの想いを強くし、起業に至る。