SNSを使ったPRの始め方 効果的な運用を構築する4つのポイント
ここ数年、広報PR活動では、従来のようないわゆるマスメディアの取材を呼び込むためのプレスリリースだけで無く、SNSを使って企業が自ら情報を発信することが多くなってきました。
SNSをせっかく始めても、全社的な経営戦略や広報戦略の中で適切に運用できなければ、成果に結びつかないばかりか企業のイメージを低下させることになり、むしろ逆効果になりかねません。そういった意味では、どのように運用するか、どういった会社に外注するかといった実務の前段階で、どのような目標のもとでどのような計画を立てるかといった、戦略を明確化することが極めて重要です。
SNSを使ったPRの始め方 効果的な運用を構築する4つのポイント
メディアの種類
最初に、広報PR活動で使うメディアについて触れておきます。
なお本コラムでは、読者の皆さんがイメージしやすいようにSNSとしましたが、実際にはソーシャルメディア全般を指しており、具体的には、以下の様なメディアが考えられます。
- コミュニケーションメディア・・・Twitter、Facebook、Instagramなど
- 動画メディア・・・YouTube、ニコニコ動画、17Liveなど
- 情報発信・・・ブログ、メルマガなど
- 集合知、プラットフォーム・・・各種レビューサイトなど
詳細は専門書などに任せるとして、本コラムでは、これらのメディアを使った広報PR活動に共通する、広報PR活動で失敗しないために準備段階で押さえておくポイントをご紹介します。
SNSを使った広報の特長と注意点
SNS・ソーシャルメディアを使った広報PR活動は、マスメディアに向けた広報PR活動と比べて、以下の様な点で優れています。
- エンドユーザーとの接点作りが比較的容易
- マスメディア経由ではリーチが難しいユーザーとのコミュニケーションが比較的容易
- 企業や団体に対する親近感を醸成することが比較的容易
また、企業の視点で言うと、広く浸透した使いやすいプラットフォームが複数あり、自社で初期費用をかけて構築する必要が無い点や、専門書や様々な分析ツール、専門のコンサルタントが多い点も、メリットであると言えます。
一方、自社のビジネスやユーザー層に合ったプラットフォームの選択や、戦略や体制の構築(運用を外注する場合であっても)、ノウハウの蓄積などがある程度できていないと、流行に流されてミスマッチなプラットフォームを選んでしまったりして、SNSを始めはしたけれど結局何の成果も得られなかった、といった声も少なくありません。
SNS広報の始めるための基本ステップ
ここからは、SNSを使って広報PRを始めるための基本的なステップを解説します。
目的や運用を決める
企業や団体がSNS・ソーシャルメディアを使って広報PR活動をしていくためには、最低限、事前に以下の様な準備が必要です。
- SNS広報の目的の定義
- SNSメディアの選定
- 発信する情報の基本的な項目の決定
- 規程、ガイドライン、クレーム対応方針などの策定
- 人員体制の構築
- 情報発信手順や承認フローの確定
- リスクの検討と対策の立案
- 発信する情報テーマの決定
- ユーザー拡大方法の具体化
- 目標の設定
当然ですが、最も重要なことは、SNSで広報を行う目的を定義することです。この時には必ず経営の合意を取り付けます。また、これからSNS広報を始める場合には、経営に加えて社内各部署のマネージャーにも目的を伝え、支援を依頼しておきましょう。
上記の事前準備が終わったら、実際の運用に入る前に半期や通期の投稿カレンダーを作り、関係者に共有しておくことも有効です。TwitterやInstagramなどのメディアは高い投稿頻度を求められますし、Facebookやブログ、YouTubeなど情報量が多いメディアは、コンテンツの作成や承認に時間を要します。いずれのメディアも、1つ投稿が終わってから次を考えるといったスピード感ではユーザーに忘れ去られてしまうため、企業の主要なイベントも踏まえながら、最低でも2~3か月先までのアクションプランは具体化しておく必要があります。
自社に合ったメディアを選ぶ
その企業の業種や業態、商品やサービス、主要ユーザー層などによって違うため、一概には言えませんが、大まかには以下の様な視点で検討するのが良いでしょう。
Twitter
比較的更新頻度が高く、営業時間やクーポン、ちょっとしたつぶやきなどに対しユーザーが反応を示しやすいイベントや飲食店などに有効。
Instagram
エンドユーザー自身がイメージを探し、そこから来店に繋がりやすい理美容業界や飲食店業界、旅行業界などに有効。
Facebook(現:Meta)、情報発信メディア
ある程度長文でしっかりと説明することで、自社の想いや考え、開発秘話、専門性などを丁寧に伝えて行きたいB to B企業などで有効。
動画メディア
作業工程、店内の様子、研修風景など、実際の人や物を見せることで良さや価値が伝わる場合に有効。
口コミサイト、プラットフォーム
価格や専門性で他社に比べ分かり易い特長があり、それをユーザーが書き込んでくれることが期待できる場合に有効。
一度SNSを始めてから、盛り上がらないからと言って途中で止めることは、企業そのものへの廃れた印象に繋がりかねませんし、SNSを見てくれていたユーザーの満足度を低下させることになるので、できるだけ避けるべきです。
そうならないためにも、単に使い慣れていたり自社の商品やサービスに合っているというだけで無く、メインユーザー層が使っているSNSを確認してみたり、サンプルでも良いので投稿する記事のイメージを作ってみたりして、検証したうえでメディアを選択しましょう。
外注するか、内製で自走化するかを決める
SNS広報の業務量は、上記のような準備段階を緻密に行うことで一定の緩和はされますが、やはり日々の運用実務で大きな負担が発生します。例えば、誤案内や想定外のクレーム、ユーザーがなかなか集まらないことへの対策、イベント、分析、レポートといった業務のほかに、ユーザーからのレスポンスが想定以上に来るといったポジティブな状況でも対応には相応の人手を割かれることになり、対応できなければ多くのユーザーの満足度を一気に下げてしまうことになります。このように運用実務においては、人員の確保や、オペレーションを効率的かつ高品質に行い、ユーザーの満足度を高めるための専門的なノウハウが必要です。
しかし、だからと言って運用代行業者に丸投げで委託をしてしまうと、たいてい、「ただ何となくSNSに運用している」だけになってしまい、何を達成したのかもよく分からないまま作業負荷だけが増えます。
そのため、SNSで広報PRを始める場合には、準備段階から実務段階までワンストップで対応できるノウハウを持つ業者とタッグを組んで長く運用して行くか、または、準備段階で広報PRの専門家と一緒に仕組みを作り、その後一部で運用代行業者を使いながら徐々に自走化を目指していくか、いずれかのやり方を採ることをお勧めしております。
なお、その企業の状況にもよりますが、弊社ではできるだけ後者をお勧めしています。理由は、SNS広報の大きな特長はエンドユーザーと直接コミュニケーションを取れることであり、仕組み作りからユーザーとの接点まで全部外注してしまったら、SNSで広報をやる意味が薄れてしまうからです。
権限や業務範囲を決める
外注で運用するにしろ、内製で自走化を目指すにしろ、企業の手から完全に離れる訳では無いので、自社で誰がSNSを担当するかを検討する必用があります。
企業の公式SNSである以上、広報PRに対する知識のほか、SNSそのものやコミュニティマネジメントなどへの専門的なノウハウも不可欠です。しかし、上記のような人材はなかなかいないのが実情です。さらに、SNSへのコメント書き込みを許可している場合、24時間いつでも書き込まれることになりますが、それをどうやって監視するかなども検討する必用があります。加えて、投稿や上記のようなコメントに対する承認フローを検討するうえでは、企業の方針やルール、営業活動など、自社に対する広範な理解が必要です。
権限や業務範囲を決めるとは、上記のような事情を踏まえ、誰が対応するか、何を投稿するか、どのように見せるか、どこまで対応するか、エスカレーション基準とその後の対応はどうするか、といったことを決めることです。
ポイントは、規程>ガイドライン>対応手順書と、大方針から詳細運用に段階的にブレイクダウンさせながらルールに吸収させていくことです。初期段階で全てのシチュエーションをルールとして明文化することは不可能です。しかし、一つ一つのコメント例に対する対応ルールは作れなくても、「ユーザー同士のラリーが3往復以上発生したら終結するまでモニタリングする」といった上位概念のルールなら設定可能です。 このようにルールを決めても、最初はなかなか上手く行かないことが大半です。しかし、それでもルールを定め共有することで、担当者間の対応にブレを無くし、成功や失敗に対してもロジックエラーかヒューマンエラーか検証可能になり、PDCAを回しやすくなります。
効果を検証する
SNS運用で最も重要なことは、投稿作業そのものではありません。もちろん、SNSのユーザーを増やすためには、投稿内容が有用であることは不可欠です。しかし、有用な投稿をするためには、アクセス分析、VOC(Voice of Customer)の確認、効果検証や改善を継続的に行い、PDCAをしっかり回して行くことが重要です。
詳細は専門書に任せますが、TwitterならTwitterアナリティクス、FacebookならFacebookインサイト、ブログならGoogle Analyticsなどの分析ツールを活用することで、ユーザーが自社のコンテンツにどのようにアクセスしているのか、どのような内容を好み、どのようなコミュニケーションを期待しているのかを把握することができます。これをもとに、コンテンツの内容や運用手順などを改善して行きます。
また、コメントやクレームなどのVOCであれば、個別の対応の正否を確認するのはもちろん、それを自社のルールに当てはめて改善点が無いかも確認します。そして、注意喚起レベルでは無くルール自体を改善する必用があると判断した場合には、口頭で伝達するだけで無く必ず規定、ガイドライン、対応手順書などの文書も更新し、社内異動や中途採用で配属されたメンバーや運用の外注先も含め認識を統一させます。
注意点について
SNSの運用を始める際には、業務フロー上のリスクやSNSには適さないコミュニケーションについても、事前に十分な検討をしておくことが必要です。
リスクへの対応
SNSのリスクと言うと、いわゆる「バカッター」のような書き込みによる炎上リスクを挙げる声を聞きます。しかし、これはSNS特有のリスクという訳ではありません。
確かにSNSの「中の人」が不適切な情報を投稿したことにより炎上する例はあり、SNSで広報PRを行う上で無視することはできません。ですが、他のチャネルでも、例えば営業担当者が顧客に失礼な態度をとってしまったり、コールセンターで顧客に暴言を吐いてしまったり、といったことが発端になって炎上が発生することもあります。中には、企業側もその従業員もSNSを全くやっていなくても、上記のような発端となる出来事を顧客がSNS上に投稿し、その投稿が大きく反響を呼び、いわゆる炎上や祭りのような状態になってしまうケースもあり、「うちはSNSやってないから関係ない」とは言えない時代になっています。
ですから、これらのリスクを低減させるためには、SNS特有のリスクと考えるのでは無く、企業活動全体で生じうるリスクを洗い出し、日頃から継続的に従業員教育を行い、不適切な投稿をしないようにする承認フローや、万一投稿してしまった場合にも早期に発見できるようにする監視フローを検討することが重要です。
また、SNSに起因するリスクだけで無く、SNS運用と無関係に発生する事件や事故などのネガティブな情報に対しても、SNS上でどのようなコミュニケーションを行うべきか決めておくと良いです。
SNSには適さないコミュニケーションへの対応
リスクを考慮したうえでも、導入が簡単で、コストがかからず、エンドユーザーとの距離が近づきやすいなど、SNSによる広報PRには多くのメリットがあります。
しかし、SNSによるコミュニケーションも万能ではありません。例えば、実施期間が短いイベントに対するコミュニケーション、SNSをあまり使わないユーザーを含めた不特定多数とのコミュニケーション、多くのユーザーからの返信の獲得などは、SNSだけでは達成困難です。
そのため、そういったSNSの限界、SNSに適さないコミュニケーションか否かをしっかりと見極めながら、場合によっては広告や従来からのマスメディア経由の広報PRと併用するなど、複合的なアプローチによりユーザーとコミュニケーションを図っていくと良いです。
参考までに、GoogleやFacebookでは、キーワードや地域などといった条件を細かく設定して広告を配信することができます。そういった広告で新規ユーザーに気付いてもらえるきっかけを作りつつ、SNSで継続的なコミュニケーションを行い、自社のファンになってもらうことを目指しましょう。
まとめ
広報PR業務全般に言えることですが、ユーザーの認知度を高めファンを増やすためには、面白い投稿で一発当ててバズらせることよりも、ユーザーのことを考えながら継続的にコミュニケーションを取り、企業の想いを伝え続けて行くことが重要です。
今回のコラムでは、SNSの広報について、失敗しないための準備をお伝えして来ました。
どれも基本的なことですが、SNSやソーシャルメディアは簡単に始められるので、しっかり準備をせずにやり始めて大変な苦労をしたり、何を達成したのかよく分からないまま続けているといった話しを聞いたりすることもあるので、そうならないように、ぜひ本コラムを参考にしていただければ幸いです。
なお弊社では現在、SNSの運用代行は行っておりませんが、準備段階のコンサルティング、SNSやソーシャルメディアを含めた経営戦略・広報戦略の検討、実行のご支援は、随時承っております。
自社の経営環境を踏まえて広報PR業務を強化して行こうとされている企業様は、ぜひ、お気軽にご相談ください。